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経済・企業 2023年の経営者

EVと蓄電池に強み 利益は還元――井上治・住友電気工業社長

Photo 武市公孝:東京都港区の住友電気工業東京本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の住友電気工業東京本社で

住友電気工業社長 井上治

いのうえ・おさむ
 1952年福岡県出身。久留米大学付設高校卒業、九州大学経済学部卒業。75年住友電気工業入社、自動車部長、常務取締役などを経て、2012年に子会社の住友電装社長、17年6月から現職。米国やインドネシアなどの海外駐在経験を持つ。71歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 2023年3月期の連結営業利益は前期比45%増、2ケタの増収増益でした。好調の要因は。

井上 売り上げの4分の1程度を占める環境エネルギー部門が好調でした。再生可能エネルギー関連、国内の送電線の更新、海外では洋上風力発電所に使う直流の高圧海底ケーブルの受注が好調でした。再生可能エネルギーは鉄塔や送変電の設計、ケーブルの納入と敷設、運転支援までパッケージで提供できる強みがある。送電線は国内の更新需要が安定しています。

 海外では洋上風力発電所向け海底送電線で、40万ボルト、52.5万ボルトといった超高圧の直流ケーブルのプロジェクトが目白押しです。1件で数百億円から数千億円です。これだけ高圧の直流ケーブルを製造できる企業は欧州を中心に世界に4社ほどしかありません。風車間を結ぶ容量の小さいケーブルも大量に発注されます。そこで当社は4月に英スコットランドに26年度の稼働を目指し、工場建設を決めました。

 日本国内でも北海道と本州、九州と本州を結ぶ直流の高圧ケーブルの海底送電線の構想が進んで、いまFS(企業化調査)が進んでいます。発注されるボリュームが決まれば国内での設備投資も検討していきます。

── 主力のワイヤハーネス(自動車電線)はどうですか。

井上 売り上げ約4兆円のうち1兆8000億円程度をワイヤハーネスが占めます。当社は東南アジアで製造し、日米の工場に輸出していますが、コロナ禍による物流の混乱、半導体不足で急な減産に見舞われました。海上輸送の日数も40日が倍以上になり、洋上在庫は2倍、原料の製品在庫も膨らみ、海上運賃は高騰しました。23年度に入り運賃は下がりましたが、それでも19年度の2倍です。ただ物流は安定し、半導体不足の影響もほぼなくなり、今年度は自動車の復活に期待しています。

EVで売り上げ拡大

── 世界的な電気自動車(EV)シフトが始まっています。

井上 EVになって車関係の製品の売り上げが落ちることはありません。電池からモーターにつなぐ400から800ボルトの高圧ケーブルや電池の管理システムが必要となる。EVが普及する前のワイヤハーネスは12〜14ボルトが中心で、電力が2、通信制御系が1の割合でしたが、今は電力1、通信制御系1の割合になっています。

 ハーネスの本数はむしろ増えています。他にもEV用の小型高出力のモーターに使われる平角巻線という銅線が19年比で3倍に増えています。リチウムイオン電池用リード線の新製造拠点もメキシコに新設します。

── 銅は住友グループの祖業とも言えます。歴史的な強みは?

井上 基本的に銅を伸ばして電線を作るところから派生したビジネスで、突飛なところには行ってない。通信ケーブルも銅線から光ファイバーケーブルに、超硬工具も銅を伸ばす技術から始まりました。

 ただ時代の変遷に応じて製品構成も変え、製品自体も進化させ、やめた製品も結構ある。やはり顧客に求められる機能の製品を開発していく姿勢は強い。例えば、自動車は道路情報の入手など外部とつながる機能が求められ、その機能はもっと高度になる。この「つながるクルマ」にどんな機能が提供できるか、それに応じて新しい製品を出さないといけないと思っています。

── 蓄電池も歴史があります。

井上 これは自動車用ではなく定置用のレドックスフローというバナジウムを利用して充放電する蓄電池です。これまでは実証試験に取り組んできましたが、今年4月には商業運転用としては日本初のレドックスフロー電池を北海道電力に納めました。2月にも米国の電力・ガス会社に実験用の設備を販売しました。電力が安い時間帯に蓄電し、高い時間帯に放電し、売電収入を得る取り組みです。日本でも太陽光や風力など変動がある電気を蓄電し、工場で使ったり、充電時と放電時の値差で収益を上げるといった取り組みで複数の引き合いがきています。

 レドックスフローは大型で出力は小さいですが燃えることはなく、長寿命で、長時間の繰り返しの給電に対応できます。20年後にバナジウムを再利用できるメリットもあります。

── 25年までの中期経営計画で特に強調した点は。

井上 ステークホルダーに対し、定量的な目標を設定しました。まず地域社会には純利益の1%程度を還元、株主には配当性向40%を続け、お客様には脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)、EVや自動運転といった成長テーマの売り上げで1.1兆円、従業員には毎年の賃上げをインフレプラスアルファを目安にする、といった目標です。ここに質問が殺到すると思ったらIR説明会ではほとんどありませんでした。

(構成=金山隆一・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2008年6月に常務取締役・自動車事業本部長に就いた年のリーマン・ショックです。ワイヤハーネスの受注が激減し、ドイツの子会社の立て直しに向けて奔走した時です。

Q 最近買ったもの

A よく飛ぶゴルフクラブを買いました。昔は好きでしたが、今は年3、4回しか行けません。

Q 社長業とは

A 情報を集めて先手先手で手を打っていくこと。事業部門の専門スタッフが頭を働かせて計画を立てている以上、本当に実現できるか否かの判断をしなくてはいけません。


事業内容:環境エネルギー、情報通信、自動車などの素材・部材製造

本社所在地:大阪市中央区

創業:1897年4月

資本金:997億円

従業員数:28万8935人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:4兆55億円

 営業利益:1774億円


週刊エコノミスト2023年9月5日号掲載

編集長インタビュー 井上治 住友電気工業社長

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