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経済・企業 2023年の経営者

貸会議室を基軸にサービス拡充――河野貴輝ティーケーピー社長

Photo 武市公孝:東京都新宿区の本社で
Photo 武市公孝:東京都新宿区の本社で

ティーケーピー社長 河野貴輝

かわの・たかてる
 1972年生まれ。大分県出身。同県立大分雄城台高校卒。96年慶応大学商学部卒業後、伊藤忠商事入社。日本オンライン証券(現・auカブコム証券)設立に参画。イーバンク銀行(現・楽天銀行)執行役員営業本部長などを歴任。2005年にティーケーピーを設立し、現職に就任。50歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── ティーケーピー(TKP)の名前の由来を教えてください。

河野 当初は私のイニシャルにちなみ「Takateru Kawano Partners」の頭文字を由来にしていましたが、今は「トータル空間プロデュース」を由来としています。社名のロゴは画家ドラクロワの作品「民衆を導く自由の女神」で描かれた旗をイメージしています。社会をより良い方向へと導く「革命のシンボル」を表現しました。

── 貸会議室ビジネスを始めるきっかけは?

河野 2005年、東京・六本木の旧防衛庁跡地(現・東京ミッドタウン)を歩いていたら、取り壊し予定のビルが目に入りました。2階より上は真っ暗でもったいないと思い、取り壊すまでの間に借りたのが第1号の会議室です。2、3階(各20坪)の家賃は計20万円で、当時の相場の3分の1でした。3階は近くで工事している建築会社が家賃25万円で借りてくれたので、5万円の利益が出ました。

 2階には、大型量販店で買った椅子や机を置いて貸会議室を始めました。レンタル代は1時間1人100円。暗証番号で開く鍵をつけ、インターネットで利用を募った結果、大手企業の申し込みが相次ぎ、50万円の収益が出ました。その後は会議用弁当や懇親会などの付加価値をつけて単価を上げ、さらに顧客も増えて事業が拡大しました。まるで「わらしべ長者」のようでした。

ワクチン接種の会場に

── 23年2月期連結では、売上高が505億円(前期比13%増)でした。新型コロナウイルスの影響は脱しましたか。

河野 コロナ下では、貸会議室などでキャンセルの嵐でした。厳しい時期でしたが、空いている貸会議室を無料でワクチン接種に使ってもらおうと21年5月、菅義偉首相(当時)に提案し、企業ごとの職域接種が翌月から始まりました。私たちの貸会議室を接種に使っていただくことで、これまでのお客様だけでなく各企業の人事担当者とのパイプが太くなり、新入社員研修などで貸会議室を利用いただく機会も増えました。

 その影響が23年2月期の業績にも表れていました。コロナは確かにピンチでしたが、過去を振り返っても、リーマン・ショック(08年)や東日本大震災(11年)を乗り越えたからこそ、今のTKPがあります。コロナがあったからこそ、さらにジャンプできました。

── 新しい中期経営計画の狙いを教えてください。

河野 24年2月期からの3年間について、売上高の年平均成長率を23%とする目標を掲げています。営業利益は26年2月期で94億円を目指します。コロナがなければ、営業利益は100億円に達する見込みがありました。コロナで成長の“一時停止ボタン”が3年間押されましたが、今後は“巡航速度”で目標に立ち向かっていきます。

── 都心でオフィスの供給が過剰になるとされています。経営への影響は。

河野 空室のオフィスが増えれば、私たちにとっては貸会議室のスペースとして安く仕入れるチャンスが生まれます。一方で、オフィス需要が縮小したとしても、本社の回りには全従業員が定期的に集まる場所は必要で、貸会議室のニーズは高まると考えています。

日本リージャス売却

── 昨年末に、子会社の日本リージャスを約380億円で三菱地所へ売却しました。

河野 リージャスはニューヨークやロンドンでレンタルオフィスを展開しており、今後は東京でも浸透すると考えて、19年に日本法人を約500億円で買収しました。日本法人ののれん代は負担でしたが、当初は新規出店すれば収益でカバーできるし、数年たてばともに成長できるという絵を描いていました。

 しかし、コロナの感染拡大で外国人が入国できず、しかも出店できないことにはのれん代の償却も進みません。買収によって(ビジネスの)アクセルを踏んだら、すぐそこに崖があったという感じです。(買収額と売却額の差で)損は出ましたが、売却資金を得て今は実質的には無借金状態になりました。「はやりのものは買っちゃいけない」ということが教訓になりました。一方で、売却により成長の“ターボジェットエンジン”を一つ失った面もあります。次のエンジンを早く作る必要があると考えています。

── どのようなエンジンを考えていますか。

河野 貸会議室などのオーナーとその利用者へのサービスを展開したい。例えば、企業の研修プログラムの提供や、株主や投資家向けに業績見通しなどを説明するIRや広報活動の支援など、貸会議室という「ハコ」からソフトの支援を目指します。こうしたビジネスの観点でM&A(企業の合併・買収)を進めていきます。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 32歳でTKPを設立しました。当時使っていたガラケー(携帯電話)をへし折り、過去の人脈を全部消して臨みました。毎日が戦場で、人気ゲームソフト「ドラゴンクエスト」のようでした。

Q 「好きな本」は

A P.F.ドラッカーの『マネジメント』です。

Q 休日の過ごし方

A 大分出身ということもあり、温泉が大好きです。NHKの大河ドラマも大好きで、大河ドラマの聖地巡りに出かけることもあります。


事業内容:貸会議室・宴会場などの空間再生流通事業

本社所在地:東京都新宿区

設立:2005年8月

資本金:163億円

従業員数:873人(23年2月末現在、連結)

業績(23年2月期、連結)

 売上高:505億円

 営業利益:35億円


週刊エコノミスト2023年8月1日号掲載

編集長インタビュー 河野貴輝 ティーケーピー社長

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