経済・企業2023年の経営者

画期的な新製品で高成長を維持――ゴードン・レイゾン ローランド社長

Photo 武市公孝:東京都港区の東京オフィスで
Photo 武市公孝:東京都港区の東京オフィスで

ローランド社長 ゴードン・レイゾン

Gordon Raison
 1965年生まれ、英国出身。英キャッシオ・カレッジ(高校)卒、英キール大学卒。米ゼロックスの英法人などを経て、2013年ローランド英法人入社。20年ローランド取締役、22年3月から現職。57歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 社長就任からの約1年を振り返ってどう評価していますか。

レイゾン パンデミック(感染症の世界的流行)によって世界は変わり、巣ごもり期間中に自宅で楽器を楽しむ人が増えました。当社は需要増の恩恵を受けましたが、世界的にはパンデミックが終わった2022年12月期も、前期に続いて増収・増益を維持しています。つまり、好調な業績は巣ごもり需要ばかりが理由ではありません。社員が変化に柔軟に対応して「ゲームチェンジャー(画期的な)製品」に焦点を定め、サプライチェーン(供給網)の復旧に努めたからだと考えています。

── ゲームチェンジャー製品とは、どんな製品ですか。

レイゾン 「既存の市場を再定義するか、新たな市場を切り開く製品」と定義しています。いくつか例を挙げると、サクソフォンやオーボエなどの音を出せる電子管楽器「エアロフォン」、ゲーム配信者向けのゲーミング・オーディオミキサー(複数の音声を切り替える機器)の「ブリッジキャスト」、それに電子和太鼓「TAIKO─1」のような製品です。

── 海外売上高比率はすでに9割に上るそうですが、社長は「ローランドを真のグローバル企業にするのが私の使命」とたびたび発言しています。

レイゾン 創業者の梯郁太郎は当初から真のグローバル企業を目指し、世界中の人が発音しやすい社名を決めたそうです。ただ、10年から赤字が続いて14年に上場廃止に追い込まれた時期、日本のローランドと海外拠点のつながりが薄くなり、障壁が高くなったと思います。私が就任してから、それを取り除き、経営の「見える化」を進めることに注力しました。例えば、世界中の全上級幹部に経営方針を伝え、議論し合う月次会議を昨年、始めました。皆が一つのチームに属するという意識が高まったと思います。

新製品の売上高を25%に

── 今年2月に発表した23~25年度の中期経営計画では、売上高の年平均成長率を8.7%、営業利益を同18.7%という意欲的な内容です。

レイゾン 14~21年の間、当社売上高の年平均成長率は市場平均の約2.5倍に相当する約8.5%でした。現在、世界的な物価高、依然として続くサプライチェーンの課題、景気後退の懸念、中国市場の回復の遅れといった向かい風に直面しています。それらに対処しながら年平均成長率を維持するには、売上高に占める新製品の比率を現状の20%から中計期間中に25%まで高める必要があります。高価格でも購入する層がいたパンデミックが終わり、販売価格を引き上げるには新製品を投入するしかありません。

── 今後の課題は何ですか。

レイゾン 当社は世界中で消費者調査をしており、その結果によると、8割の人が「音楽をやりたい」と考えています。内訳は「今、楽器を演奏している」が1割、「かつて習ったことがある」か「全く経験がないが演奏してみたい」が7割です。つまり、世界中の人々の大半が音楽をしたいと思っていながらやり方が分からないのです。それらの人々に向けた楽器やソフトウエアなどの音楽制作ツールをどのように生み出すかが鍵になります。「音楽をクリエートする喜び」を誰もが味わえるようにするのが会社としてのミッション(任務)なのです。

ロンドンに直営店

── そのためにゲームチェンジャー製品が必要なのですね。

レイゾン その通りです。先ほどお話ししたエアロフォンを投入した際、欧米と日中では違う方法を取りました。欧米では管楽器の経験者、日中では楽器を演奏した経験のない人に売り込みました。結果として、日本の売上高は米国、カナダ、欧州の合計を上回りました。日本での購入者の多くは楽器経験がない退職後の人たちでした。エアロフォンがもつゲームチェンジャーとしての側面を示すものだと考えています。

── 22年8月、英ロンドンに直営店「ローランドストア」を開いたのはなぜですか。

レイゾン 18年、米国で開かれた世界最大規模の楽器見本市「NAMMショー」に出向きました。当社のブースにはすてきな音楽が流れる中、光があたって製品を魅力的に映し、来場者がそれに触れていて、ブランドイメージとワクワク感を体験できる効果的な仕掛けだと思いました。元々、当社は楽器店の中に当社製品を集めたコーナーを設ける「ストア・イン・ストア」を展開していました。今、世界17カ所にあります。さらに22年、顧客とつながる機能を高めるため、初めての直営店をロンドンに開きました。今年末までに東京、来年初めには米国にも開く予定です。その効果を見極めた上で次のステップを考えていきます。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 家族と仕事の両立に必死でした。「財務の専門家になる」という目標をかなえ、関心に近い経営や戦略に幅を広げようとしていました。

Q 「好きな本」は

A 最近気に入ったのは、英歴史学者ピーター・フランコパン著『シルクロード全史』(邦訳は河出書房新社)。私の歴史知識を塗り替える刺激的な内容です。

Q 休日の過ごし方

A 住んでいる浜松から各地へ出向き、妻と飼い犬とキャンプを楽しんでいます。


事業内容:電子楽器、電子機器の製造販売

本社所在地:浜松市

創業:1972年4月

資本金:96億円

従業員数:2783人(2022年12月末、連結)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:958億円

 営業利益:107億円


週刊エコノミスト2023年7月11日号掲載

編集長インタビュー ゴードン・レイゾン ローランド社長

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事