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経済・企業 2023年の経営者

“非保険”領域で顧客を拡大――高田幸徳・住友生命保険社長

Photo 中村琢磨:東京都中央区の東京本社で
Photo 中村琢磨:東京都中央区の東京本社で

住友生命保険社長 高田幸徳

たかだ・ゆきのり
 1964年大阪府出身。府立北野高校卒業、88年京都大学経済学部卒業。同年住友生命保険入社。2017年執行役員、18年上席執行役員、執行役常務(バイタリティー戦略部担当)。21年から現職。58歳。

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 3月に発表した中期経営計画では生命保険事業以外の領域を強化する目標を掲げました。どのような狙いからですか。

高田 日本の生命保険市場は、人口減少や少子高齢化が進む逆風の状況にあります。中計は3年ごとに作りますが、もう少し中長期で考え、2030年の時点でどうありたいかということを考え、それを基に実践する3カ年にしようと考えました。18年に発売した(運動や健康管理の取り組みによって保険料が変化する)「Vitality(バイタリティー)」は大変人気で、今までの「リスクに備える」という保険の役割から、「リスクを減らし、人生に保険以外で寄り添う」ことができたと考えています。当社では「非保険領域」と言っていますが、健康増進はもとより、地域に根差して寄り添う、人生を支えるなどの領域でいろいろなことができると考えています。

── 4月からバイタリティーの健康増進プログラムを保険契約と切り離して、単独サービスとして始めましたね。

高田 そうですね。バイタリティーの良さは、なかなか口で言っても分かってもらえないので、1カ月間の無償の体験版を作り、その後に保険の検討をしてもらおうとしたところ、これまでに42万人に利用されました。ただ、1カ月ではすぐに終わってしまいますし、保険は加入のタイミングがあり、すでに他社の保険に入っている人もいます。せっかくの取り組みを継続してもらえないかと、プログラムだけ切り離して提供することにしました。月額330円を頂き、それを取り戻してもらう活動をしてもらおうとしています。

不妊治療プログラムも

── 不妊治療に関するサービスも始めるそうですね。

高田 当社が目指す「ウェルビーイング(よりよく生きる)」という価値についてのサービスについて、スタートアップ企業と組み、提供できないかを考えています。よりよく年を重ねることを考える中で、子供が欲しいのに恵まれないという問題があります。そこで「妊活」ができる環境作りをサポートするプログラムを作り、企業向けサービスとして実施したところ、大変評価が高かったのです。不妊治療の相談窓口やセミナーなどの内容でサービス提供を始めることにしました。23年度は先行して20社程度を目標にスタートし、24年度の本格的なサービス開始を目指しています。

── 中計発表と同時期に東京本社を東京駅前の新ビルに移転しました。目指す効果とは。

高田 若い職員を中心に、どういう職場にしたいかという移転プロジェクトを考えてもらいました。(固定机がない)フリーアドレス制で部署の垣根を低くして、部門を越えた人とつながることを目指しています。全国1500の支部にも、そうした価値を広げていきたいと思っています。一歩先へ行く革新的な何かも考えていこうということで、従業員同士の交流やイベントなども進めていきます。

── 3月で中計期間が終わったところですが、足元の業績をどのように受け止めていますか。

高田 前の中計の3年間は丸々、新型コロナウイルスの感染拡大期間に重なってしまいました。保険会社としても、これまでにない対応を迫られました。コロナ禍の初期は「非接触・非対面」の状況下で、課題だったデジタル化が進みました。また、コロナで自宅待機などをする中で、改めて予防や健康増進の重要性が認識され、この3年間でバイタリティーは予想以上に好評を得て、販売件数も伸びました。昨年度の決算では、コロナ入院給付金の支払いが1000億円近くに上り、その分が減益になっていますが、それは保険事業としては当然のことです。コロナ禍で得た知見をどう保険事業に生かしていくかなども問われる新中計になると思っています。

── 海外の事業展開は、どのように考えていますか。

高田 米国と東アジアで事業展開をしています。米国は100%子会社のシメトラが主力とする個人年金の販売が伸びており、増収増益の状況です。アジアは、ベトナム、インドネシア、シンガポール、中国で、現地企業と提携しています。アジアは成長途上で、伸びていく市場だと思っていますので、機会があれば投資をしていきたいと考えています。

── 物価上昇が進む中、営業職員について平均5%の賃上げを打ち出しましたね。

高田 営業職員は保険契約の募集実績について給与が変動する職種です。給与の財源全体を5%引き上げるので、人によって差が開きます。当社が目指す「ウェルビーイング」というものに、どれだけ貢献できるかで評価差を付けています。非保険であるバイタリティーのプログラムのみの提供も評価ポイントに加えます。社会貢献価値と本人の収入のバランスを取れるようにする狙いです。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2018年にバイタリティーを発売した際、歩数計測やポイント管理などをするスマートフォンのアプリが頻繁に止まったことです。開発した南アフリカの会社に足を運び、システムの折衝をして、1、2年でうまく動くようになりましたが、産みの苦しみを味わいました。

Q 「好きな本」は

A 佐藤一斎の『言志四録』です。リーダーの心得などが記されており、上司に読むように勧められました。

Q 休日の過ごし方

A 美術館に行くのが趣味で、夫婦で出かけます。週末は「皇居ラン」で5キロ走ることを目標にしています。


事業内容:生命保険業

本社所在地:大阪市中央区

創業:1907年5月

連結総資産:42兆9942億円

従業員数:4万5336人(2022年3月末現在、単体)

業績(22年3月期、連結)

 保険料等収入:2兆4119億円

 基礎利益:3652億円


週刊エコノミスト2023年5月23・30日合併号掲載

編集長インタビュー 高田幸徳 住友生命保険社長

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