週刊エコノミスト Online2023年の経営者

M&Aで成長、時価総額6倍狙う――柴田英利・ルネサスエレクトロニクス社長

しばた・ひでとし 1972年神奈川県出身。県立相模原高校卒業、東京大学工学部卒業、米ハーバード大学経営大学院で経営学修士号取得。JR東海、メリルリンチ日本証券、産業革新機構などを経て2013年10月ルネサスエレクトロニクス取締役、執行役員常務兼最高財務責任者(CFO)を経て19年7月から現職。50歳。(Photo 武市公孝:東京都江東区の本社で)
しばた・ひでとし 1972年神奈川県出身。県立相模原高校卒業、東京大学工学部卒業、米ハーバード大学経営大学院で経営学修士号取得。JR東海、メリルリンチ日本証券、産業革新機構などを経て2013年10月ルネサスエレクトロニクス取締役、執行役員常務兼最高財務責任者(CFO)を経て19年7月から現職。50歳。(Photo 武市公孝:東京都江東区の本社で)

ルネサスエレクトロニクス社長 柴田英利

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

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── 柴田社長が取締役としてルネサスに参加した2013年当時の経営状況は非常に厳しいものでした。それが22年12月期には売上収益、営業利益、純利益ともに過去最高でした。10年間でどのような改革が功を奏したのですか。

柴田 基本的には経営のあり方を変えたことだと思います。10年前も半導体市場自体は伸びていましたが、ルネサスだけでなく多くの事業者が市場から脱落しました。中長期で当社が競争力を保つことができる市場と、今後伸びそうな市場はどこかと決めて、そこに向けた製品のロードマップ(行程表)を設定して、競合他社と差別化するよう取り組んできました。追い風は常に吹いているものです。サーフィンのように、タイミング良く波に乗れるように自らを鍛えて準備してきました。

── 勝てそうなマーケットをどこに設定し、どのように差別化したのですか。

柴田 まずは息の長い製品領域です。一昔前の携帯電話のように半年や1年で新製品が出るものではなく、2、3年あるいは5年に1度といったペースで新製品が出る領域に焦点を当てました。自動車や産業ロボット、医療機器、通信網のインフラ設備などに搭載される半導体製品です。品質や信頼性が重視される分野が当社の得意分野であると定めました。

 もう一つはソリューション提案です。かつては、「御用聞き」のように、納入先から求められた製品を開発していたやり方から、少しずつですが、当社からより使いやすい複合化された製品として提供するように注力しています。顧客が半導体に使う金額の中のより多くの部分を取れるようにすることを積み重ねてきました。

── M&A(合併・買収)に積極的で、近年では海外半導体企業の大型買収を3件実施しました(17年米インターシル、19年米IDT、21年英ダイアログ・セミコンダクターで買収金額は合計約1兆6400億円)。どういう狙いで実施してきたのですか。

柴田 全体を貫くテーマは二つあります。一つは製品や技術面で当社に不足していた部分を埋めることです。ルネサスといえば自動車用マイコンと代名詞的に語られることが多いですが、マイコンだけ搭載しても何も動きません。その周辺には電流の制御や信号の流れの整理などのさまざまな装置が必要です。そうした装置は当社の競合が提供していたのですが、それなら当社自らが提供してもいいではないかということで、対象企業を買収しました。

 もう一つが人材です。19年以降は新しいカルチャー(企業文化)を作ろうと取り組んでいます。かけ声は大きくても、何十年も同じメンバーで仕事をしていたら何も変わらないじゃないですか。そのため、人材採用も併せて会社ごと買収しようという発想です。社員の構成も変化していて、15年末に約2万人いた従業員は全て内部出身者だったのが、買収を通じた人材が全体の2割(22年3月)に達しました。これらの新戦力なしでは、今の受注入札案件は全く取れなかったと思います。

自動車用は一段と拡大

── 用途別に19年と21年を比較すると、自動車向けの割合が減ってIoT向けが増えていますが、この傾向は今後も続きますか。

柴田 そんなことはありません。自動車は今後タイヤが付いたコンピューターみたいになるので、半導体需要が拡大するチャンスです。三つの注力分野を設定しています。一つは、ADAS(先進運転支援システム)といわれる、自動運転の補助をする機能を拡充します。もう一つは電動化です。世界で明らかに立ちあがっていますからね。三つ目は、電動化に関連して、車の中のエレクトロニクス化の構造が大きく変わってきます。これを後押しするための半導体分野ですね。この部分の強化では買収もあるかもしれません。

── 30年に株式時価総額(3月15日時点で約3.6兆円)を6倍に引き上げる目標を掲げています。

柴田 「2倍×3倍」で考えています。30年には売上収益を昨年実績の2倍近い200億ドルに引き上げることを目標としており、キャッシュフローも2倍にしたら、時価総額2倍は難しくありません。問題はどのようにして3倍を実現するかです。これは事業部門間の協業をもっと進めていくこと、デジタル化を通じて1.5倍から2倍程度に高めることができます。

 さらには、当社の株価は競合他社に比べて割安だと考えています。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といったバリュエーション(株価評価尺度)の倍率が低いのです。これは将来にわたる事業のリスクを低減することで倍率を高めることができます。シリコンサイクルといわれる半導体産業でのリスクを下げることで、6倍は大言壮語ではなく、実現可能だと考えています。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんな仕事をしていましたか

A 投資銀行などで投資の仕事をしていました。「世の中を最速で走るぜ」という感じの、生意気な男でした。2008年の「リーマン・ショック」で価値観が大きく変わり、人の縁を大事にするようになりました。

Q 「好きな本」は

A 石原慎太郎の『弟』(幻冬舎)をすごく面白く読みました。同じ日本人なのに、こんなにカラフルな人生があるのかと感銘を受けました。

Q 休日の過ごし方

A 料理が好きです。最近で上出来だったのは各種インド料理。タンドリーチキンやライタ(サラダ)、サブジー(野菜料理)がおいしかったです。


事業内容:半導体製品の設計・製造販売

本社所在地:東京都江東区

設立:2002年11月

資本金:1532億円

従業員数:2万1017人(2022年12月末、連結)

業績(22年12月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:1兆5008億円

 営業利益:4241億円


週刊エコノミスト2023年4月11・18日合併号掲載

編集長インタビュー 柴田英利 ルネサスエレクトロニクス社長

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