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経済・企業 2023年の経営者

マヨネーズとドレッシングで海外開拓――高宮満・キユーピー社長

たかみや・みつる 1961年東京都出身。都立小松川高校、東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学部卒。87年同大学院水産学研究科(食品生産化学専攻)修士課程修了、キユーピー入社。2012年研究開発本部長、13年執行役員、20年キユーピータマゴ社長を経て、22年2月から現職。61歳。(Photo 武市公孝:東京都渋谷区の本社で)
たかみや・みつる 1961年東京都出身。都立小松川高校、東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学部卒。87年同大学院水産学研究科(食品生産化学専攻)修士課程修了、キユーピー入社。2012年研究開発本部長、13年執行役員、20年キユーピータマゴ社長を経て、22年2月から現職。61歳。(Photo 武市公孝:東京都渋谷区の本社で)

キユーピー社長 高宮満

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 原材料価格の高騰が経営への逆風になっています。

高宮 気候変動などの影響で、主力のマヨネーズの原料となる食用油の価格はもともと高騰していました。ロシアのウクライナ侵攻後は原材料価格に加えて物流費や電気代も上昇し、現在も続いています。食材の値上がりは今年いっぱいで一巡すると見ていますが、卵に関しては足元で鳥インフルエンザの感染拡大による生産減の影響が出ています。当社は鶏卵の国内生産量の約1割に当たる年間25万トンを扱っています。調達が難しくなり、今後の影響が心配です。

── 業績は増収減益という状況が続いていますね。

高宮 増収は商品値上げの影響が大きいです。卵の価格高騰を受け、今年2月にマヨネーズの値上げを発表したばかりです。海外事業の伸長や新型コロナウイルス禍からの回復も一因です。ただ、売り上げが伸びると同時に原価も上がっており、利益が追いつきません。短期的には少し厳しい状況です。

── 国内市場は人口減少による市場縮小、健康志向の高まりなど構造的な変化に直面しています。

高宮 市場が縮小する国内だけでは継続的な成長はできません。そこで人口が増えている海外に力を入れ始めています。一方で、これまで順調に伸びてきた国内市場は、コロナ禍で業務用が縮小するなど市場環境が変化しており、変化にどう向き合うかが重要になっています。高齢化社会が進むにつれ、食べ物を通じて健康を維持しようというニーズが増し、「健康」というキーワードの重要性も高まっています。そこで、機能性表示食品など健康機能を付与した商品の品ぞろえを強化しています。

── どのような商品戦略で臨んでいるのですか。

高宮 マヨネーズとドレッシングでは異なります。当社はこの二つを兄弟のような位置づけだと思っていたのですが、コロナ禍や原材料価格の高騰を経て、その違いに気付かされました。マヨネーズは値上げをしても食卓に欠かせない調味料として使われ続け、キユーピーというブランドを選んでくれる顧客が多かったのです。そのため、基本はマヨネーズという商品そのものを磨くことが何より大事だと考えています。

 一方、ドレッシングは種類が多く、店頭でも迷うほどのフレーバーやメーカーがあります。ドレッシングの用途拡大などを進めてきましたが、嗜好(しこう)性が強くて選択肢も多いので、価格優先で選ぶ人も増えています。メニュー提案に加えて、おいしさやこだわりを伝えることが大事になっています。

米テネシー州に新工場

── 海外の一般的なマヨネーズと卵の使い方が違うそうですね。

高宮 キユーピーマヨネーズの特徴は卵黄だけを使っていることです。約100年前に創始者が米国でマヨネーズと出会い、日本人向けに作ったのです。海外のマヨネーズは卵白も使うのが一般的で味が淡泊ですが、当社商品はコクがあり濃厚で酸っぱいのが特徴です。海外では約40年前からマヨネーズを生産、販売していますが、なかなか定着しませんでした。

 ところがこの数年、手応えを感じています。日本食が海外に広まった影響のほか、コロナ前のインバウンド(訪日外国人)が広めてくれました。米国ではキユーピーマヨネーズが売りの料理店がはやることも起きました。輸出だけでは間に合わないので、2022年末にはテネシー州に第2工場を建てることを決めました。

── 海外事業は中国、東南アジア、北米で進めていますね。

高宮 マヨネーズと深煎りごまドレッシングの二つを中心に、ブランドを浸透させようと考えています。深煎りごまドレッシングは、どこの国でもおいしいと言われる、当社にとって宝物のような存在です。例えば、生野菜をあまり食べない中国では、火鍋のつけだれとしても使われています。海外売上高は中国がけん引してきたのですが、昨年はコロナ禍でのロックダウン(都市封鎖)の制約などの影響を受けました。ただ、東南アジアと北米がその分をカバーし、成長を続けています。

── 最近は環境対応の取り組みの重要性が増しています。どのような戦略ですか。

高宮 中期経営計画では二酸化炭素(CO₂)排出量の削減などいくつかの項目で数値目標を設定しました。太陽光発電や容器包装材の軽量化、プラスチックの排出量削減などに取り組んでいます。手間も時間もお金もかかりますが、顧客に支持される企業になるための先行投資だと考えています。

 商品のおいしさと日持ちの延長の取り組みも進めています。マヨネーズの賞味期間はかつては7カ月間でしたが、製法を工夫して1年間に延びたことで、流通途中での廃棄が減り、輸出も可能になりました。最近ではサラダなどで、おいしさを保ちながら日持ちを長くすることに力を入れています。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2005年に本社の新規商品開発部の部長を任されたものの、期待外れの結果に終わったことです。私は研究所出身で、本社の商品のマーケティングを批判していたら自分が担当することに。うまくいかずに研究所に戻され、商品開発の難しさを知りました。

Q 「好きな本」は

A 経営コンサルタントの小宮一慶さんの本です。分かりやすく、考えに共感できます。

Q 休日の過ごし方

A 普段はウオーキングをしています。メリハリをつけ、ロックバンド「スーパービーバー」のコンサートや大相撲観戦にも行きます。


事業内容:マヨネーズソースや一般ソースの製造販売、各種食料品の製造販売など

本社所在地:東京都渋谷区

設立:1919年11月

資本金:241億400万円

従業員数:1万696人(2022年11月、連結)

業績(22年11月期、連結)

 売上高:4303億400万円

 営業利益:254億3300万円


週刊エコノミスト2023年3月28日号掲載

2023年の経営者 編集長インタビュー 高宮満 キユーピー社長

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