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経済・企業 2023年の経営者

変化に応じた新しいオフィスを提案――湊宏司・イトーキ社長

みなと・こうじ 1970年大阪府出身。私立駒場東邦高校卒業、東京大学経済学部卒業。94年日本電信電話(NTT)入社、2003年南カリフォルニア大学(米国)経営大学院修了。08年米サン・マイクロシステムズ入社、日本オラクル副社長最高執行責任者などを経て、22年3月現職。52歳。(Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で)
みなと・こうじ 1970年大阪府出身。私立駒場東邦高校卒業、東京大学経済学部卒業。94年日本電信電話(NTT)入社、2003年南カリフォルニア大学(米国)経営大学院修了。08年米サン・マイクロシステムズ入社、日本オラクル副社長最高執行責任者などを経て、22年3月現職。52歳。(Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で)

イトーキ社長 湊宏司

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 2022年12月期の最終利益は過去最高の52.9億円と業績好調ですね。要因は何ですか。

湊 当社の事業セグメントは、売上高の7割を占めるデスクや椅子などオフィス家具を中心とする「ワークプレイス事業」、3割を占める研究施設や倉庫で使う自動仕分け機などの「設備機器・パブリック事業」と、大きく分けて二つあります。

 とりわけワークプレイス事業は昨年も今年も好調です。オフィスビルの市況が動くと、伸びる傾向があります。今年から来年にかけて、東京都心では港区などで新しいオフィスビルが完成予定であるほか、大阪・梅田でも再開発が進んで、福岡・天神でも新しい大型ビルができます。企業が新築ビルに移転すれば、玉突きで元のビルに新たなテナントが入るので、当社にとってビジネスチャンスとなります。

── 新型コロナ禍の影響はどうでしょうか。

湊 実は大型オフィスビルの新規供給では、昨年はここ数年で最低レベルでしたが、ワークプレイス事業の業績は好調でした。その理由は、売上高に占めるリニューアル(改装)案件の比率がコロナ禍に入って増えていることです。20年までは新築・移転案件のほうがリニューアルより多かったのですが、21年に両者の割合が逆転し、22年はそれぞれ46.2%と53.8%と差が広がりました。オフィスのあり方を真剣に考え始めているのでしょう。例えば、もともとビル10階分のオフィスを構えていた企業が、在宅勤務をする社員が増えたことで7階分に減らしたとします。3割減らせた賃料の半分を、レイアウトのデザインや家具に投資して、魅力的なオフィスにしたいという企業が増えているのです。

ハイブリッド勤務に商機

── 企業の要望を聞いて、新しいオフィスにするのですね。

湊 その際の打ち合わせ相手は、以前は総務部長が主流でした。今は社長や副社長から「若手社員を集めて明日の働き方を考えたいので、コンサルティングをして助けてくれないか」と依頼されることも増えました。当社にはインテリアデザイナーが約120人おり、レイアウトをデザインし、さらに子会社が内装工事し、その過程で当社の家具を納品することができます。このようなコンサルティングで得る収入が増えています。

── レイアウトを変えることで、どんな効果が見込まれますか。

湊 昔のレイアウトは、社員を最も効率的に管理するため、管理職が部下を見渡せる配置にする「島型」が主流でした。その後、ノートパソコンが普及すると、LAN(域内情報通信網)ケーブルがある場所ならどこでも働ける「フリーアドレス制」を採用する企業が増え、当社調べでは22年度に8割に上りました。タブレット端末と無線LANが普及した今、働ける場所はさらに広がっており、出勤とリモート勤務を併用する「ハイブリッド勤務」が広がるのは間違いありません。そうなると、社員同士のコミュニケーションが薄くなり、オフィスで人と会って話すことの重要性も一層高まります。

── リモート勤務が増えると、商品が売れなくなりませんか。

湊 私は家具を売るだけの段階を「オフィス1.0」、コンサルティングを通じたオフィスづくりの段階を「2.0」と呼んでいます。さらに次の段階として「3.0」を考えています。それは、椅子などのオフィス家具にセンサーを付けて、その家具の使用率、オフィス内でどう移動させたのか、生産性の高い社員がオフィスのどこで働くか、といったことを計測できるようにする仕組みです。そうして得たデータを基に、コンサルティングができる新たなビジネスモデルを生み出せると考えています。今、他社と共同でAI(人工知能)を使って研究しています。

── ハイブリッド勤務に合わせた新しい家具も開発しています。

湊 共有スペースでウェブ会議をする時、参加者以外の声が入ると、自宅から参加する人は聞き取りにくくなります。そこで高性能なマイクを取りつけ、会議参加者の声だけを収音するオフィス家具を開発しました。

 常に新しいアイデアを出す仕組みが必要です。その一環として、昨年までソニーグループでオーディオ・映像製品の研究開発トップだったキーパーソンを、当社のスマートオフィス商品開発本部長として招きました。私もIT(情報技術)業界出身ですし、異業種の人ならではの新しいアイデアを出せる仕組みをつくっています。

── 海外戦略はどうでしょう。

湊 16年に買収したシンガポールの内装工事会社、ターカスの業績が伸びています。日本で成功したコンサルティング、デザイン、内装工事、オフィス家具の納入をセットにしたビジネスモデルを同社に持ち込み、シンガポールとマレーシアで実験しようと考えています。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 米国の南カリフォルニア大学で経営学大学院に通う傍ら、同大映画芸術学部のコースで映画も学びました。

Q 「好きな本」は

A 最強チームを作るため試行錯誤する中で、元オラクル幹部のリズ・ワイズマン氏による『メンバーの才能を開花させる技法』が一番役に立ちました。

Q 休日の過ごし方

A 出張が金曜日に終わる時、週末を使ってその地方にある国宝を巡っています。京都市の泉涌寺にある観音像が特に好きです。


事業内容:デスク、事務チェアなどオフィス家具の製造・販売、オフィス空間のデザイン

本社所在地:東京都中央区

創業:1890年12月

資本金:52億9400万円

従業員数:3973人(2021年12月末、連結)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:1233億2400万円

 営業利益:45億8200万円


週刊エコノミスト2023年3月14日号掲載

2023年の経営者 編集長インタビュー 湊宏司 イトーキ社長

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