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経済・企業 2023年の経営者

「資産管理型ビジネス」に転換――中田誠司・大和証券グループ本社社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

大和証券グループ本社社長 中田誠司

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 今期(2023年3月期)は市場が大きく変動し、証券会社にとっては逆風でしたね。

中田 経験したことがないほど難しい1年でした。インフレの波が押し寄せ、米欧が金融政策を変更する中で、22年2月にロシア・ウクライナ問題が起きました。新型コロナウイルス禍も3年目に入り、サプライチェーン(供給網)の寸断などのひずみが生じています。年が明けてもこうした問題は、ほぼ引き継がれたままです。

── その中で、21年に策定した3年間の中期経営計画は折り返し地点に来ました。

中田 23年度に経常利益2000億円以上、ROE(株主資本利益率)10%以上という目標は、非常に高いハードルになったことは否めません。ただ、環境が厳しい中でも、長期的な視点に立った経営はできていると考えています。

── 今期も個人投資家向けのリテール部門は好調です。

中田 旧来の証券会社のビジネスは、株式や債券、投資信託などの商品を販売して、売買手数料で収益を得るというものでした。そこから、顧客が持つ資産全体について分析し、資産運用することで収益を得る「資産管理型ビジネスモデル」へと転換していることが奏功しています。例えば「ファンドラップ(預かり資産の運用を一任されて行う金融商品)」の手数料や、投資信託の信託報酬などの収益をリテール部門全体の50%以上にしようとしていますが、予定を若干上回るペースで進んでいます。

── 来年度の税制改正案に、少額投資非課税制度(NISA)の制度拡充が盛り込まれました。どのように取り組みますか。

中田 従来の「つみたてNISA」の非課税となる投資枠は年間40万円で、当社の中心顧客である50、60代以上の高齢富裕層にとって魅力的な税制優遇制度ではありませんでした。それが投資上限が計1800万円に拡大されたことで、顧客にしっかりと勧められる設計になりました。日本の金融資産は60代以上が7割以上を保有しています。こうした資金の循環を促すことは社会的意義もあります。

── 一方で、機関投資家や法人などを対象にしたホールセール部門は大きく落ち込んでいます。

中田 マーケットの変動の影響を受けやすいのです。有価証券の引き受け業務やM&A(企業の合併・買収)のアドバイザリー業務などを行う「グローバル・インベストメント・バンキング」は、企業が行動を起こさなければ、なかなかビジネスにつながりません。主に機関投資家を対象に有価証券の売買などを行う「グローバル・マーケッツ」も影響を受けます。

 こうした状況がずっと続くようならビジネスモデル自体も見直さないといけないでしょう。しかし、今はかなり異常な状態ともいえます。顧客の行動や取引が元に戻ってくれば、もう少ししっかり稼げるようになると考えています。

証券業以外を拡大へ

── 市場環境に影響されにくいよう、証券業以外のビジネスを伸ばす「ハイブリッド戦略」を打ち出しています。進捗(しんちょく)はどうですか。

中田 まだ道半ばですが、中間期決算では経常利益全体の約6割を占めました。不動産のアセットマネジメント(資産の管理・運用の代行業務)や大和ネクスト銀行、再生可能エネルギーに投資する大和エナジー・インフラを軸として考えています。知的財産の活用、収益化に取り組む「アイピー・ブリッジ」にも出資しました。

── 証券業以外の分野をさらに増やす可能性もあるのでしょうか。

中田 当社が取り組んでいるのは証券会社のノウハウが使える分野です。例えば直接、不動産開発をするのではなく、REIT(不動産投資信託)に向かったのも証券ビジネスのノウハウが使えるからです。農業ビジネスのように、まだ種をまいたばかりの会社もありますが、長期的な視野に立って取り組んでいきたい。どんどん手を広げるのではなく、既存のものを伸ばし、芽が出ていないものはしっかりと芽が出るように注力したいと考えています。

── 証券業界もデジタル化が進み、IT分野に強い人材が不可欠です。

中田 ビジネスで使うことを考えれば、証券業務を理解しているデジタルIT人材でなければ意味がありません。そこで、デジタルIT人材を育てる社内プログラムを始めました。2年間かけて研修と現場の仕事を経験し、当社のビジネスも分かり、デジタルITにも通じた人材を育てています。23年度までに、認定者を200人まで増やしたいと考えています。

── 23年度は4%程度の賃上げを実施する方針です。

中田 インフレが進むと実質賃金が目減りするので、その調整という位置づけです。インフレ社会の中で働いて生活するためには、インフレ調整は必要最低限のことではないかと思います。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2009年の法人向け証券会社「大和証券SMBC」の合弁解消直後に法人部門を束ねる役割を任せられたことです。逆風の中で大和証券単独でやっていけるようにしようと、3年くらい必死でした。

Q 最近買ったものは

A 腕時計型端末「アップルウオッチ」です。健康管理だけでなく、メッセージへの返信もすぐにでき、非常に重宝しています。

Q 時間があればしたいことは

A 何も考えずにゆっくりと旅行がしたいです。欧州のほか、国内では山陰地方を巡りたいですね。


事業内容:証券ビジネスを中核とする投資・金融サービス業

本社所在地:東京都千代田区

発足:1999年4月

資本金:2473億円(2022年3月)

従業員数:1万4889人(22年3月、連結)

業績(22年3月期、連結)

 営業収益:6194億7100万円

 経常利益:1358億2100万円


 ■人物略歴

なかた・せいじ

 1960年東京都出身。早稲田大学高等学院卒業。83年早稲田大学政治経済学部卒業、大和証券入社。大和証券SMBC事業法人営業部長、エクイティ部長、商品戦略部長を経て、2007年大和証券グループ本社執行役。09年常務執行役、15年専務執行役、16年副社長を経て、17年4月から現職。62歳。


週刊エコノミスト2023年2月21日号掲載

編集長インタビュー 中田誠司 大和証券グループ本社社長

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