アジアの成長を取り込む第2段階へ――亀沢宏規・三菱UFJフィナンシャル・グループ社長グループCEO
三菱UFJフィナンシャル・グループ社長グループCEO 亀沢宏規
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)
── 2023年の世界経済をどう展望していますか。
亀沢 新型コロナウイルスの感染拡大も落ち着く時期に入りつつあります。欧米を中心としたインフレに対して各中央銀行が利上げで対応し、インフレは徐々に沈静化して金利上昇のペースも落ち着いてくるというのが今の見立てです。ただ、欧米では景気後退は避けられないとみていますし、ロシアのウクライナ侵攻に象徴される地政学リスクは残るでしょう。他方で、日本経済は消費が回復し、インバウンド(訪日外国人客)も戻り、設備投資も強いので緩やかに回復するとみています。
── 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の経営にはどう影響するでしょうか。
亀沢 当社は商業銀行を中心とした金融グループで、金利の正常化は前向きに捉えています。この6~7年間はずっと低金利で、収益的には苦しかったです。この間、アジアでのビジネス拡大やアセットマネジメント(資産の管理・運用業務)を伸ばすなど、収益源の多様化とグローバル化を進め、22年3月期の純利益は過去最高(1兆1308億円)になりました。
── 日銀が22年12月20日、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大すると発表し、今後も金利は上がりそうです。銀行は商売がしやすくなりますが、住宅ローンの負担が増す家計と金利負担が増える企業にも影響が及びます。
亀沢 日本経済は超デフレから脱却しないと成長しないと言われてきました。今回の決定が、健全に成長する過程となり、金利も正常化する好循環が起きると思います。これまでは海外に投資してきたのですが、今後は国内の元気な企業に当社がどう支援するのかが重要です。金利が上昇すると「金融機関だけもうかる」と言われますが、(超低金利によって)当社はこの10年間株価が低迷し、株価純資産倍率は(解散価値を下回る)0.5倍にとどまっていることはご理解いただきたいですね。
── 日銀の決定もあり、ドル・円相場は1ドル=132円台まで円高が進みました(22年12月下旬時点)。22年には1ドル=150円台と32年ぶり水準に円安が進んでいます。今後の為替をどう見ますか。
亀沢 日銀の発表は基本的には金融緩和の継続で、その中で出たゆがみを調整する考え方でしょう。金融緩和が続くと考えれば、まだ大きな傾向としては円安方向に圧力がかかるとみています。マーケットはいろいろなことを先読みするので、もう少し上下に振れる展開があるかもしれません。企業からすると為替は落ち着いてほしいところでしょう。当社は金融のプロとして、為替について分析して顧客に助言していきます。
インデックス投信が好調
── 政府・与党は23年度税制改正で、少額投資非課税制度(NISA)を拡充します。「貯蓄から投資」への流れをグループ全体でどう取り込んでいきますか。
亀沢 20年3月から比較すると、22年3月末までに(傘下の三菱UFJ銀行と三菱UFJ信託銀行の)預金が22.4兆円増えています。当社への信頼の証しだと思いますし、ありがたいのですが、預金が1~2年で20兆円以上増えると運用が非常に難しいのです。顧客資産を増やすためにも、国内金融資産を投資に振り向けるよう努力する必要があると考えています。
成果の一つとして、傘下の三菱UFJ国際投信が運用するインデックス(指数)ファンド「eMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)シリーズ」があります。同シリーズの投資信託が最高評価(投信ブロガーが選ぶ21年のベスト投信)を得ており、販売が爆発的に伸びています。
── MUFGを今後どのように成長させますか。
亀沢 五つの成長戦略を掲げています。ウェルスマネジメント(富裕層向け資産管理業務)、(取引先法人への)経営課題解決型アプローチ、アジア事業、機関投資家向けビジネス、グローバル資産管理・投資サービスです。中期経営計画(21~23年度)では、この成長戦略で収益を1500億円増やす方針でしたが、1年半で2000億円を超えました。ここをもっと強化したいと考えています。
アジアでは、フィリピンとインドネシアのノンバンク事業をオランダ企業から買収すると決めました。アジアで銀行口座を持たない層に、家電販売などで割賦ローンを提供するものです。AI(人工知能)とビッグデータ解析を用い、貸し倒れは非常に低く抑えられています。この買収によってアジアの成長を取り込む戦略は第2段階に入ったと考えています。
グローバル資産管理は、豪州の資産運用会社FSI(ファースト・センティア・インベスターズ)を19年に買収し、22年の収益に大きく貢献しました。この領域は追加買収を含め検討し、市場シェアを倍増させたいと考えています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 53歳で初めて米国に赴任した際に、リスク担当役員が辞めました。3000人の米国人の部下を抱えたものの、英語は得意でなく、後任が決まるまで非常に厳しかったです。
Q 「私を変えた本」は
A 中学2年で矢野健太郎の『数学をきずいた人々』を読み、数学者を志望しました。大学生の時に城山三郎の『男子の本懐』を読み、社会に出ようと考えを改めました。
Q 休日の過ごし方
A ジムに行ったり、軽いジョギングをしたり。スポーツ観戦も好きです。テレビドラマやお笑い番組が好きで、録画しておいた番組を見ます。
事業内容:総合金融グループ
本社所在地:東京都千代田区
設立:2001年4月
資本金:2兆1415億円(22年9月末)
従業員数:13万5049人(22年3月末、連結)
業績(22年3月期、連結)
経常収益:6兆758億円
純利益:1兆1308億円
週刊エコノミスト2023年1月24日号掲載
編集長インタビュー 亀沢宏規 三菱UFJフィナンシャル・グループ社長グループCEO