経済・企業2022年の経営者

不動産とエネルギーで収益向上  長谷川拓磨・いちご社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

長谷川拓磨 いちご社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)>>これまでの「2022年の経営者」はこちら

── 手掛けている事業を教えてください。

長谷川 不動産の有効活用とエネルギー創出を軸とした事業を行っています。主にオフィスビル、ホテル、商業施設、賃貸住宅という4種類のアセットを対象に、大きく三つの事業を展開しています。

 一つ目は既存のオフィスビルやホテルを取得後に改修し、価値向上を図って保有や売却をするバリューアップ事業です。二つ目は投資家の資金を預かり、オフィス、ホテル、再生可能エネルギーの上場投資法人や私募ファンドなどを運用するアセットマネジメント事業。三つ目が太陽光発電を中心とするクリーンエネルギー事業です。当社全体の売り上げと利益に占める割合は、バリューアップ事業が8割を占め、残りが1割ずつぐらいです。

── 既存ビルを購入する狙いは。

長谷川 歴史が古い大手不動産会社は都心の一等地を所有しており、新築の大型オフィスビルを建てるビジネスです。当社は比較的新しい会社で、そうした土地は所有していないため、既存の中古ビルを購入しています。日本では40~50年の減価償却の期間を経てビルを建て替えるのが一般的ですが、欧米はじめ海外では築100年ほどのビルもたくさんあります。

── 不動産関連の事業は、新型コロナウイルス禍で大きな影響を受けたのではないですか。

長谷川 一番影響を受けたのはホテルです。次にダメージを受けたのは商業施設です。

 一方で、オフィスビルは当社が主に保有・運用している中規模の物件はほとんど影響を受けていません。ただ、大型ビルは打撃を受けました。国内の大企業やグローバル企業が働き方改革や経費削減でオフィスの集約や見直しを進めているためです。その意味では、当社が台場(東京都港区)に保有する大型ビルも、一時的に稼働率が半分程度に落ち込みました。今後は、都心の一等地からの賃料圧縮需要を取り込んで稼働率を上げ、埋め戻しをしたいと考えています。

── ホテルでいえば、AI(人工知能)を活用した需要予測を導入しています。

長谷川 ホテルの客室需要と売上高予想をAIで計算するシステムを開発しました。客室価格は季節要因や大型イベントなどの影響を受け、日や時間によって変動します。その価格は、従来はホテルのベテラン担当者が経験と勘で決めていましたが、限界がありました。そこで当社のホテルで人に代わりAIを導入したところ、売り上げが2~3割も上がりました。このシステムを商品化し、21年から全国のホテルに外販も始めました。

 コロナ禍でホテル業界では多くの従業員が去り、人手不足になっており、問い合わせも増えています。現在の導入事例はまだ150棟ほどですが、今後は2000~3000棟を目指し、収益化を進めます。

── 需要が旺盛な物流施設をほとんど手掛けていない理由は。

長谷川 物流施設に過熱感がある中、当社は出遅れています。過去に物流マーケットが良くなった時に、当社はホテルの案件を増やしてきました。今から物流施設に投資しても、高い利益は見込めません。ただ、小型の古い物流施設に限れば、ニーズはあると思います。そのため、住宅地に近い場所で宅配の再配達拠点としての用途に注目し、2021年から取り組み始めています。

風力やバイオマスも拡大

── もう一つの柱であるクリーンエネルギー事業の戦略は。

長谷川 11年の東日本大震災後に始めました。太陽光発電は地主との交渉や開発の進め方など、不動産と事業プロセスが似ていて、当社はノウハウを持っていることが強みです。当社保有の太陽光発電は全国に約60カ所あります。ゴルフ場の跡地や産廃埋め立て地などの遊休地を借りてメガソーラーを稼働させており、出力合計は139.7メガワット(22年2月期)です。

── 再エネは事業として成り立ちますか。

長谷川 政府の固定価格買い取り制度(FIT)では、買い取り価格は大幅に下がりました。一方で、発電効率の向上や技術革新で発電コストも下がっています。つまり、FIT価格が下落しても、事業として見合うようになりました。太陽光発電を始めて12年目になりますが、再エネ賦課金の制度がなくても、社会貢献できる事業として成り立つ一歩手前まで来ています。

── 今後の事業展開は。

長谷川 風力発電も21年から始め、さらにバイオマス発電も検討中です。現在は発電した電気をすべて電力会社の系統に流していますが、政府以外の需要者に市場価格で買い取ってもらうことを考えています。将来的には、当社のクリーンエネルギーを自社保有のビルで使用することを視野に入れています。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 当社に入社した頃です。不動産流動化の黎明(れいめい)期とリーマン・ショックを経験し、激動の時期でした。

Q 「好きな本」は

A 松下幸之助の『道をひらく』です。自分がどの年代の時に読んでも、本来の場所に気持ちが戻ることができます。

Q 休日の過ごし方

A 妻、娘3人と一緒に外出や散歩をしています。


事業内容:不動産の投資・運用、クリーンエネルギー事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:2000年3月

資本金:268億円

従業員数:384人(2022年2月期、連結)

業績(22年2月期、連結)

 売上高:569億円

 営業利益:100億円


 ■人物略歴

はせがわ・たくま

 1971年千葉県習志野市出身。県立検見川高校卒業、94年武蔵大学経済学部卒業。同年フジタ入社。2002年にいちご(旧アセット・マネジャーズ)入社、不動産部門全体の責任者を経て、15年5月から現職。51歳。


週刊エコノミスト2022年12月6日号掲載

編集長インタビュー 長谷川拓磨 いちご社長

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