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経済・企業 2023年の経営者

省エネルギー技術で強い会社に――相川善郎・大成建設社長

あいかわ・よしろう 1957年長崎県生まれ。県立長崎西高校卒。80年東京大学工学部建築学科卒業後、大成建設入社。2013年4月から執行役員。九州支店長、取締役常務執行役員建築総本部長兼建築本部長などを経て20年6月から現職。65歳。(Photo 中村琢磨:東京都新宿区の本社で)
あいかわ・よしろう 1957年長崎県生まれ。県立長崎西高校卒。80年東京大学工学部建築学科卒業後、大成建設入社。2013年4月から執行役員。九州支店長、取締役常務執行役員建築総本部長兼建築本部長などを経て20年6月から現職。65歳。(Photo 中村琢磨:東京都新宿区の本社で)

大成建設社長 相川善郎

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 足元の事業環境はどのような状況ですか。

相川 民間の建設需要が増えており、受注は確実に伸びています。ただし建設資材が高騰し、事業環境は非常に厳しい状況です。利益を出せても、その高騰分で相殺されてしまう状況がここ1、2年続いています。建設資材単価は2年で15~20%近く上がりました。

── コロナ禍も大変だったのではないでしょうか。

相川 最初の2年間は工事の延期や中止がありました。特に海外事業では、当社は日系企業からの受注が多く、渡航制限で物理的に凍結状態でした。ですが、2021年度後半から元に戻っています。

 また、13年に東京五輪パラリンピックが決まって以降、18年ごろまでは関連の建設需要がかなり増え、単価が上がっていました。そのため民間事業では、五輪後に先送りする傾向も見られました。今、その時の需要が増えています。

── 現在行っている工事は、どのようなものがありますか。

相川 東京都港区の「虎ノ門二丁目」など、首都圏の大型再開発工事をしています。海外では、エジプトの「ボルグ・エル・アラブ国際空港」の増築やシンガポールでの地下鉄工事などがあります。

── 空港や鉄道に強みがあるのですね。

相川 特に国際空港には強みを持っています。24時間稼働の国際空港で、改修や増築をする場合、運航に支障を来すことがあってはいけません。工事自体が難しい上、資材運びなど物流の調整も高度なノウハウが求められます。

── 大手ゼネコンの中で他にどのような特徴がありますか。

相川 食品工場など生産施設、製造ラインを作る「エンジニアリング」の専門部が強みの一つです。コンサルティングから設計、建築、使用開始後の運営管理まで一貫した対応ができ、医薬品施設を中心に50年以上の実績があります。

 また、原発についても、建屋の安全対策工事や防潮堤の工事など、建築と土木両技術が必要です。両技術力を生かし、現在稼働している加圧水型(PWR)の原発の約半数は、当社が工事しました。

「ネットゼロ」の建築

── 建設業界は景気の波を受けやすい面があります。マネージするための工夫は。

相川 社長就任時、最初に掲げた方針が「景気に左右されない、安定した会社を作る」です。エンジニアリング部門はもちろん、建築・土木のリニューアル工事や環境対策の技術開発の強化に取り組んでいます。例えば、建築では耐震補強のほか、脱炭素に向けた省エネビル「ゼロ・エネルギー・ビル」への改装工事。土木でいえば道路やダムなどの社会インフラの改修工事です。技術開発では、排ガスから回収した二酸化炭素を製造時に吸収できるコンクリートや、太陽光で発電できる電池を搭載して壁面に付けられるガラスなども開発しています。加えてグループ会社に23年8月、次世代技術研究所を建設し始めます。この研究所は「ゼロカーボンビル」といって、建物として使う際はもちろん、建てる段階から解体する段階までを含めた、二酸化炭素排出量の実質ゼロ実現を目指します。

── 海外事業はどうですか。

相川 カントリーリスクを見通すのが非常に難しいので、安定的に、徐々に増やすことを考えています。現地における当社の歴史が深く、成長が見込める台湾やフィリピン、インドネシアなどで確実に伸ばしたいです。21年度の海外の売上高は全体の1.5兆円のうち776億円ですが、23年度には2兆円のうち1300億円に、総売上高目標を2.5兆円としている30年度にはさらに比率を高めたいです。

── 働き方改革にも力を入れており、男性の育休取得率が3年連続100%です。

相川 ロボットの活用などで自動化、省力化を進めても、人が主体の仕事であることは変わりません。性別問わず社員全員が活躍でき、そして少子化対策のためには安心して結婚し、子どもを産める企業環境づくりが重要です。そうした考えから、07年につくった女性活躍推進室を「人材いきいき推進室」に進化させました。

 また現場で働く技能労働者も、高齢化などで不足が見込まれます。加えて円安などの環境で海外からの労働者も、4、5年前からは日本を選んでもらえにくくなっているのが現状です。給与面などの魅力を高める必要もあります。

── 「地図に残る仕事。」というキャッチフレーズは有名です。

相川 古くは東洋初の地下鉄「銀座線」から、台風などの観測に35年間大活躍した「富士山頂レーダードーム(富士山測候所)」、そして旧国立競技場や新国立競技場などを建設してきました。当社は23年で創業150周年。創業者である大倉喜八郎のパイオニア精神をもう一度ひもとき、伝統を受けついだ上で、未来に向けて発展していきたいと思っています。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 東京都内の品川や天王洲で高層ビルなどの建築現場の監督をしていました。モノをつくることがとにかく楽しかったです。

Q 「好きな本」は

A 沢木耕太郎著『深夜特急』は原点です。経営関係の本も読み、最近は年間150冊くらい。かばんには常時2冊ほどの本を入れています。

Q 休日の過ごし方

A 日本庭園巡りが好きです。特に「石」が素晴らしい庭は癒やされます。「山水に得失なし 得失は人心にあり」という庭に関する夢窓疎石(むそうそせき)の言葉が好きで、社長室に掲げています。


事業内容:総合建設業

本社所在地:東京都新宿区

創業:1873年

資本金:1227億4215万円(2022年3月31日現在)

従業員数:8579人(22年3月31日現在、単体)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:1兆5432億4000万円

 営業利益:960億7700万円


週刊エコノミスト2023年1月17日号掲載

2023年の経営者 編集長インタビュー 相川善郎 大成建設社長

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