週刊エコノミスト Online2022年の経営者

従業員の心と体の不調を解決する 鳥越慎二・アドバンテッジリスクマネジメント社長

Photo 中村琢磨:東京都目黒区の本社で
Photo 中村琢磨:東京都目黒区の本社で

鳥越慎二 アドバンテッジリスクマネジメント社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)>>これまでの「2022年の経営者」はこちら

── 事業内容は。

鳥越 企業向けに、人事課題の解決策を提供しています。従業員の心身の状態を把握するための検査や、問題を抱えている人向けのカウンセリング、状態を良くするための研修などを行っています。個別のサービスをしている企業はほかにもありますが、総合的に扱っているのが当社の特徴です。

 従業員の心と体の状態が良く、彼らが「社会的に認められている」と感じていれば潜在能力を発揮でき、ひいては生産性が上がり、企業価値も高まります。それを実現するには従業員が抱えるストレスや病気を予防し、育児や介護など課題を解決する必要もあり、そのサポートをしています。

── そうしたサービスはどれぐらいの企業で導入されているのですか。

鳥越 当社はもともと団体長期障害所得保障保険(GLTD)の代理店としてスタートし、その後に「ストレスチェック」を事業に加えました。従業員の心理的な不安を把握するため、雇用主が実施する検査で、2015年からは従業員が50人以上いる雇用主は健康診断と同様に年1回実施することが義務化されました。22年3月現在、当社のストレスチェックとGLTDを導入した企業で働く人は363万人に上っています。

── ストレスチェックで結果が悪かった人には、どのように対応するのですか。

鳥越 改正労働安全衛生法によって、悪い結果が出た従業員が申し出た場合、雇用主は医師による面接指導を受けさせる義務があります。そこで当社は医師面接に関する業務をするほか悪い結果が出た人にメールを送信してカウンセリングを受けるように促しています。

 ただ、メインの業務は、ストレスチェックを請け負った企業の「従業員に占めるストレスが高い人の比率」などを調べ、それが他社に比べて多いか少ないか、多い場合はなぜ多いかを分析し、解決策を提示することです。例えば、「部下にストレスを与えるような言動をしている上司が多い」という問題点がある場合、部下のストレスがやわらぐようなコミュニケーションやサポートができるようにする研修を提案し、実施します。

── 足りない部分を補う解決策を顧客企業に提案するのですね。

鳥越 当社が扱う解決策の中に、従業員の「EQ」(心の知能指数)を測定するテストがあります。こうした感情に関する能力をなぜ調べるかというと、ストレスや「エンゲージメント」(従業員の会社に対する愛着心や思い入れ)といった心理的な課題は、感情と関係が深いからです。

 自身のコミュニケーションの特徴を知り、相手にどんな感情的な影響を与えるかを勉強し、課題があれば直してもらう。すると職場全体のストレスレベルは大きく下がります。

── そうした研修により、どのような効果が生まれるのですか。

鳥越 まず離職率が下がります。離職率が高い組織の主な特徴は、仕事にやりがいを感じず、会社に一体感を感じないなどエンゲージメントのレベルが低く、仕事のストレスが高いことです。

 短期的には従業員の心の状態が悪い企業でも成長できるかもしれませんが、継続的に成長するには、従業員の心の状態を改善することが絶対に必要だという認識が高まっています。

「健康経営」は企業に重要

── 経済産業省は従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを「健康経営」と定義し、力を入れています。

鳥越 健康経営は当社が取り組んでいることの柱です。従業員が心も体も社会的にも満たされていれば、生産性を通じて企業価値の向上につながります。

 学生が企業に求めるものの中に、「自分をどれぐらい成長させてくれるか」といった健康経営に関することが多くなっています。「ブラック企業」との対比があるのだと思います。少子化が進み、労働力は流動化しています。そんな時にブラック企業のような行動をしたら、人材は集まりません。健康経営は人材を確保し、定着させるためにも重要なのです。

── 政府は人的資本投資の方針を打ち出しており、企業は従業員への投資を強化する流れです。

鳥越 21年に始めた「アドバンテッジ ウェルビーイングDXP」は、従業員がパソコン上で、健康診断やストレスチェックの結果などを閲覧できるサービス。課題がある人には画面上でカウンセリングを勧めたりもします。

── 海外展開はどうでしょう。

鳥越 健康データのプライバシーに関する意識は国によって大きく異なります。例えば、米国の雇用主は一般的に従業員の健康診断結果を閲覧できませんし、ストレスチェックをすることもありません。ただ、従業員と雇用主の関係性が日本に近い国なら進出できる可能性があるかもしれません。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 米国留学から帰国した後、起業を決意したものの資金が足りませんでした。父に頼んで実家を担保に300万円を借りたのが30代前半でした。

Q 「好きな本」は

A 『数学ガール』(結城浩著)という男子生徒が主人公の恋愛小説です。数学の定理が分かりやすく理解できる内容で、2~3年前から繰り返し読んでいます。

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングとピアノの練習です。コロナ禍になって初めてピアノを始めました。


事業内容:メンタルヘルス不調者の予防などの支援、従業員向け教育・研修、団体長期障害所得補償保険の導入コンサルティング

本社所在地:東京都目黒区

創業:1999年3月

資本金:3億6596億円

従業員数:396人(2022年6月末、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:57億9200万円

 営業利益:3億5200万円


 ■人物略歴

とりごえ・しんじ

 1962年新潟県出身。県立新潟高校、東京大学経済学部卒業。米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院修了。86年に米ベイン・アンド・カンパニー入社。95年保険代理業の会社を設立。99年にグループ統括会社のアドバンテッジリスクマネジメントを設立し、現職。60歳。


週刊エコノミスト2022年12月20日号掲載

編集長インタビュー 鳥越慎二 アドバンテッジリスクマネジメント社長

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