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経済・企業 2023年の経営者

無線通信や化学品で社会課題を解決――村上雅洋・日清紡ホールディングス社長

むらかみ・まさひろ 1958年大阪府出身。府立北野高校卒業、滋賀大学経済学部卒業。82年日清紡績(現・日清紡ホールディングス)入社。2008年執行役員、10年取締役などを経て、18年副社長、19年3月から現職。64歳。(Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で)
むらかみ・まさひろ 1958年大阪府出身。府立北野高校卒業、滋賀大学経済学部卒業。82年日清紡績(現・日清紡ホールディングス)入社。2008年執行役員、10年取締役などを経て、18年副社長、19年3月から現職。64歳。(Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で)

日清紡ホールディングス社長 村上雅洋

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) 

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 社名から受ける繊維会社というイメージとは異なり、幅広い事業を手掛けています。

村上 社会課題の解決に必要な事業が成長事業であると考えています。もともと事業にこだわりはなく、過去の経営者は、繊維事業が一番もうかっている時に「繊維にこだわるものではない」と言っていました。その後、ブレーキ事業や化学品事業で成長してきたのは自然な流れでした。

── ブレーキに加え、無線・通信やマイクロデバイスが中核事業です。どういう狙いで強化しているのですか。

村上 社会課題は何かと考えた時に、まずは環境問題だと。そこで2006年に「環境・エネルギーカンパニーグループとして超スマート社会を実現する」という方針を定め、そのために必要な無線通信とマイクロデバイスに経営資源を重点的に投入してきました。両事業は全く無関係ではなく、関係会社に日本無線があり、既に持っていた事業をメインに据えた形です。事業別の売上比率は無線・通信が29%、マイクロデバイスが17%を占めます。

── 無線通信では何を手掛けているのですか。

村上 もとは船の無線から始め、現在は陸海空から宇宙まで全てに広がっています。船舶無線は次の段階をにらみ、自動航行に役立つ無線通信の仕組みの開発とデータ供給を進めています。世界の大型商船の3割に当社の無線が搭載されています。そこで得たデータを分析し、どんな気象条件の時にどう航行したら最も安全、かつ省エネの航行ができるかを導き出せる仕組みを持っています。これを進化させると、陸から船を制御できるようになり、将来的には無人の自動航行に発展していきます。

── 大きな成長が期待できる事業ですね。

村上 大型商船の自動航行の実現にはまだ時間がかかります。その開発と並行して、集めたデータを活用するソフトウエアのビジネスも進めています。スマートフォンのアプリで、レーダーが搭載されていない小型船舶に乗っている人に危険を知らせたり、船に乗っている人が海に落ちた時に通知したりすることができるサービスを始めました。

── 船舶以外の無線の活用はどうでしょう。

村上 喫緊の課題として異常気象があり、自然災害が多発しています。そこで、河川の上流から下流までをレーダーで監視できる仕組みを提供する予定です。異常気象で災害が起きても、避難誘導を促し人の命を守れると思います。

── 売り上げの3割を占めるブレーキ事業の現状は。

村上 手掛けている自動車用ブレーキの摩擦材は、今後は成熟化していくでしょう。EV(電気自動車)化が進んでいますが、EVでは回生協調ブレーキで電気的に減速しますので、ブレーキの摩擦材への負荷が軽減します。このため、ブレーキ摩擦材は小さく薄く、交換が必要ないものに代わるので、市場は伸びないと思います。

── ブレーキが伸びなくなっても、マイクロデバイスでパワー半導体を手掛けているのは先見の明ですね。

村上 成熟事業をそのまま抱えていては会社の成長が止まるので、次の手を打っています。マイクロデバイス事業で民生、産業機械、自動車の3分野の半導体を展開していますが、EV化が進めば自動車に搭載される半導体は増えるので、今後は自動車向けが成長すると思います。

セパレーター工場増設

── 化学品事業の主力製品は何でしょう。

村上 燃料電池用のカーボンセパレーターを手掛けており、家庭用では国内で高いシェアを獲得しています。現在はデーターセンターなどに使われる定置用燃料電池の市場が拡大しており、100億円を投じて千葉工場の増設を決めました。

 また、自動車向けの開発も進めています。超長距離の大型トラックは積載量の問題からEV化には不向きなので、燃料電池車(FCV)になる可能性があります。それに備えた試作をしています。新工場は24年末に完成しますが、もし自動車向けの市場が立ち上がるなら、次の投資を考えなければいけないと思っています。

── 他にも将来性がある製品を手掛けていますね。

村上 独自開発のポリマーをベースとした「カルボジライト」という製品があり、生分解性プラスチックなどに用いられています。欧州ではレジ袋を生分解性プラスチックにしなければいけないという規制があり、この需要が拡大しています。

── 環境に資する製品ですね。

村上 特に化学品は環境の王道の事業なので、そこが成長することは、会社の方針に一番かなっていると思います。社会的な要請もあり、環境改善を事業にしていきます。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんな仕事をしていましたか

A 工場の労務管理をしており、工場を転々としていました。ある工場で問題が起き、状況を改善するために従業員の勤務のサイクルを変えたところ、猛反発を受けました。結果的に1年で成果が出ましたが、人は変化を嫌うものだと痛感しました。

Q 「私を変えた本」は

A エリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』です。労務管理をしていた頃、希望退職で辞める人の決断を考える材料になりました。

Q 休日の過ごし方

A 朝走るほか、ゆったりした時間を過ごすことです。


事業内容:エレクトロニクス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維などの製造・販売

本社所在地:東京都中央区

設立:1907年2月

資本金:277億3700万円(2022年12月末現在)

従業員数:2万1081人(22年12月末現在、連結)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:5160億円

 営業利益:154億円


週刊エコノミスト2023年4月25日号掲載

編集長インタビュー 村上雅洋 日清紡ホールディングス社長

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