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経済・企業 2023年の経営者

船種ごとに収益安定化し、脱炭素に力――明珍幸一・川崎汽船社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

川崎汽船社長 明珍幸一

みょうちん・ゆきかず
 1961年生まれ。東京都出身。都立新宿高校卒業、東京大学文学部卒業。84年川崎汽船入社、2011年執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て19年4月から現職。62歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 2023年3月期連結は経常利益(6908億円)、当期純利益(6949億円)が2年連続で過去最高でした。コンテナ船事業が高い収益レベルに寄与していますが、この状況は今後も続くでしょうか。

明珍 続くとは考えていません。昨年5月発表の中期経営計画では、ドライバルク船(ばら積み船、穀物や鉄鉱石などを輸送)、自動車輸送船、原油やLNG(液化天然ガス)タンカーなど自営で手掛ける事業と、持ち分法適用のコンテナ船事業(川崎汽船が31%出資するコンテナ船運営会社「オーシャンネットワークエクスプレス〈ONE〉ホールディングス」からの持ち分利益)を合わせて1400億円(27年3月期)の経常利益を安定的にバランス良く稼ぎ出す目標を掲げました。昨年のような過熱した状況はいつまでも続きませんが、(現状は)想定の範囲内です。

── コンテナ船事業の業況はどうですか。

明珍 足元ではコロナ禍が始まる前の状況にかなり近づいています。感染拡大が始まったころ(20年春)、需要がいったん落ち込んだ後に、米国を中心に失業給付金が支給され、巣ごもり需要としてモノの消費が大きく伸びました。一方、供給側では、感染者拡大により労働力不足に陥り、国境で人やモノの移動の制約が増大し、サプライチェーンの各所で目詰まりが生じました。これにより、陸上でもトラック輸送や、鉄道や倉庫など各地で労働力の不足と感染対策による制約が積み重なった結果、供給も絞られました。過去2年弱、こうした状況が続きました。

── 需要が沈静化した一方で、新しく船を造る動きも出ています。そこを含めた船舶の需給状況をどうみていますか。

明珍 コンテナ船の新造船の発注残はだいぶ積み上がっており、既存のフリート(船腹量)に対して29%程度です。市況への影響はいろいろな見方があるでしょう。リーマン・ショック後の09年にはコンテナ需要が前年比で16%落ち込みました。その当時、新造船の受注残が全体のフリートに対して6割近くあったことを踏まえると、29%の受注残は少ないといえます。また、今後は環境規制が厳しくなりますので、燃費が悪く環境に優しくない船は淘汰(とうた)されます。一方、邦船3社(川崎汽船、日本郵船、商船三井)でONEを設立(事業開始は18年4月)したことで、1100億円程度の統合効果があるとみていましたが、その通りに効果が出ています。かつてのような(赤字が続く)状況には陥らないだろうと考えています。

── ドライバルクやエネルギー資源、製品物流(自動車など)の各事業は堅調です。23年3月期の3事業合計の経常利益は前期比2倍の940億円でした。

明珍 市況はコンテナ船ほどではないですが、高いレベルで推移しました。当社はドル建ての収入が多いため、円安もプラスに働きました。市況や為替など一過性のプラス要因(22年度で約170億円)を除いても、自営の事業で700億~800億円の利益を確保するという中期計画で目指した収益力は付いています。21年度に効率性が悪い老朽船を処分し、不採算事業から撤退する構造改革を進めてきた効果が出ています。

── 22年度の年間配当は1株当たり400円(前年比200円増配)です。昨年11月には上限1000億円の大規模な自社株買いも発表しました。

明珍 稼いだキャッシュフローは、まずは成長に必要な投資を行うと同時に財務体質の健全性も維持します。その上で、最適な資本を超える部分については、積極的かつ機動的に株主還元を行うのが基本的な考えです。

風力を補助推進力に

── 50年に温室効果ガスの排出を正味ゼロにすると掲げていますが、どのように実現しますか。

明珍 2段階に分けて取り組みます。第1段階は30年までです。IMO(国際海事機関)という国連機関が30年までに08年の実績に対して、1トンの貨物を約1.8キロ運ぶ際に排出するCO₂(二酸化炭素)の量を4割削減する目標を設定しています。当社はIMOの目標を上回る50%の排出削減を掲げています。実は21年の段階で08年実績に対して43%削減しているので、50%削減は可能でしょう。

 その先は、さまざまな形で削減を進めます。昨年就航した船はLNGを燃料に使うことで、重油に比べてCO₂を25~30%削減可能です。LNG燃料船は30年までに40隻前後まで増やします。さらには、風力を補助推進力として活用する開発も進めています。欧州航空機メーカー、エアバスの子会社が開発した、凧(たこ)のようなものを上げて補助推進力として使うものです。これで20%程度を削減したいと考えています。加えて、排出ゼロとなると、アンモニアや水素、合成メタンなど新しい燃料を使うことも必要になるでしょう。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A リーマン・ショック当時にコンテナ船事業の部長でした。その年に約670億円の赤字が出ましたが、500億円の新造船投資を進めていました。苦労して社内外を説得して承認を取りました。

Q 「好きな本」は

A 北杜夫の『幽霊』や小松左京の『日本沈没』が好きです。乱読派です。

Q 休日の過ごし方

A 大学時代にバンドを組んでいて、当時の友人とスタジオでJポップスやロック演奏しています。楽器はベースです。


事業内容:総合海運業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1919年4月

資本金:754億円

従業員数:5438人(2022年12月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:9426億円

 営業利益:788億円


週刊エコノミスト2023年6月6日号掲載

編集長インタビュー 明珍幸一 川崎汽船社長

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