経済・企業2023年の経営者

「女性のフィットネス」で健康作りに貢献――増本岳・カーブスホールディングス社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

カーブスホールディングス社長 増本岳

ますもと・たけし
 1964年神奈川県出身。県立希望ケ丘高校、明治大学政経学部経済学科卒。89年ベンチャー・リンク入社。2004年米国で「カーブス」に出合い、その理念とビジネスに心酔する。05年カーブスジャパン設立、社長就任。11年から現職。58歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 「女性だけのフィットネス」にこだわった理由を教えてください。

増本 国内では若者が減る一方、国内人口のボリュームゾーンは60、70代中心になるため、今後伸びるビジネスは「シニア向け」ではないかと考えました。それに合ったものはないか探す中で出合ったのが、米国で創業されたフィットネスクラブ「カーブス」でした。米国のカーブスはシニア向けではありませんでしたが、日本では「50代以上の女性」を対象にすれば、ビジネス展開の可能性があると考えました。

 フィットネスというと、通常は運動好きの男性が中心で、女性は主役ではありませんでしたが、「運動が必要だと思っているけど、なかなかできない」という声が多い女性にターゲットを絞りました。カーブス創業者のゲイリー・ヘブンさんに会い、最終的には「日本を任せる」と言っていただき、日本でフランチャイズを展開する権利を2005年に結びました。

── 「30分の健康体操」がキャッチフレーズです。狙いは。

増本 運動プログラムは1回たった30分です。始めやすく、女性のインストラクターと一緒に取り組むことで無理なく続けることができます。メニューは筋トレや有酸素運動、ストレッチで、女性の健康維持に必要な運動が盛り込まれています。生活習慣病の改善や介護予防などへの効果は学術論文でも確認されています。

── 新型コロナの影響は。

増本 感染拡大当初、フィットネスジムは感染リスクが高いとされたうえ、顧客のシニア層で外出自粛の傾向が強まったため、カーブスは「フィットネス×シニア」──というダブルパンチを受けました。業界でコロナの打撃を最も受けたと考えています。コロナ前の19年秋時点では、2000店舗を超え、会員数も86万人とピークになりましたが、20年4月からの緊急事態宣言などの影響を受け、店は休業を迫られ、会員数も54万人にまで落ち込みました。

 しかし、比較的若い50代を中心にした「ヤング層」のマーケティング戦略を組み直し、集客に力を入れた結果、会員は75.8万人にまで回復しています(今年2月時点)。コロナ下は非常に厳しい事態となりましたが、社員も強くなり組織の結束も強まりました。私たちの理念は、病気や介護の不安や孤独がない、生きるエネルギーがあふれる社会を作ることです。この使命の実現に向けて強い絆ができたと感じます。

オンライン併用に手応え

── オンライン事業の取り組みを教えてください。

増本 結論的には、フィットネスのオンラインのマーケットは小さいと考えています。一方で、店舗とオンラインのフィットネスを併用する会員制度「Wプラン」を創設し、好評をいただいています。50代の会員はフルタイムで仕事している人が多く、中には親の介護を担っている人もいて、60代以上に比べれば来店する機会が減っています。そういう人にとっては、こうしたハイブリッド型の仕組みは利用しやすく、手応えを感じています。コロナによって、オンラインという武器が手に入り、新しい客層の拡大に向けた方法論も見えてきました。

── 物販の売り上げは。

増本 プロテインなどの物販売上高は22年8月期で163億円となり、過去最高となりました。価格は昨年値上げしましたが大きな影響はありませんでした。現在はプロテインに次ぐ新しい商品開発を進めています。物販を強化するとともに土台となる会員数を回復させていく方針です。

── 海外展開はどう進めていきますか。

増本 18年に米国の総本部を逆買収し、19年には欧州のフランチャイズ本部を買収しました。スペイン、イタリア、英国を中心に8カ国で141店舗を展開しています(昨年末現在)。運動嫌いの人が安心して来店し、運動を続けられるようにするのがインストラクターのサポート力であり、そこに私たちのビジネスの大きな強みがあります。こうした日本のサービスの仕組みを導入し、業績が急回復した国もあります。コロナ下では欧州はロックダウン(都市封鎖)してしまいましたが、日本のビジネスの根幹部分はグローバルにも十分通用すると考えています。

── ポストコロナの経営戦略をどう描いていますか。

増本 コロナが5類に移行され、シニアの市場が動き始めていると実感しています。自粛していた人も、積極的に外出するとともに生活を楽しむ傾向が強まり、シニアマーケットが回復してきたとみています。50代とともに、その上の60代以上という二つの年齢層で顧客を拡大していく準備が整っています。すでに男性を対象にした「メンズ・カーブス」を展開しています。今後もさまざまな新規事業に取り組んでいきます。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2006年からフランチャイズ出店を全国的に始めましたが、当時はほとんどの店舗で赤字でした。私を信じて出店いただいたお店だけに、大変きつかったことを思い出します。しかし「お客様の満足度をどう引き上げるのか」といった課題に取り組み、経営のノウハウの根幹がこの時にできあがりました。

Q 「好きな本」は

A 『現代の経営』(ピーター・ドラッカー著)や『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著)です。

Q 休日の過ごし方

A 主に家族と過ごしています。


事業内容:「女性だけの健康体操教室 カーブス」の運営

本社所在地:東京都港区

設立:2005年2月

資本金:8億円

従業員数:557人(22年8月末現在、連結)

業績(22年8月期、連結)

 売上高:275億円

 営業利益:27億円


週刊エコノミスト2023年6月13日号掲載

編集長インタビュー 増本岳 カーブスホールディングス社長

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