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経済・企業 2023年の経営者

専門人材の価値向上を支援――井川幸広クリーク・アンド・リバー社会長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

クリーク・アンド・リバー社会長 井川幸広

いかわ・ゆきひろ
 1960年生まれ。佐賀県出身。県立佐賀東高校卒業。毎日映画社に勤務後、フリーランスのディレクターとして活動。90年クリーク・アンド・リバー社を設立、代表取締役社長。2023年5月代表取締役会長(CEO)に就任。63歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── どういった経緯で起業されたのですか。

井川 フリーのディレクターをやっていた時、ヒューマンドキュメンタリーを手掛けていました。人が苦労して成功した話に視聴者は勇気をもらったり感動したりして、テレビ番組の視聴率も上がっていました。

 テレビは取り上げた人が成功した時点で終わりですが、その先をやりたくなりました。頑張っている人たちをフォローする仕組みを作ろうと思って、クリーク・アンド・リバー社を設立しました。「事業ドキュメンタリー」を制作している感覚で、会社を経営してきました。

── 幅広い事業を手掛けられています。

井川 すべての事業は人のアイデアから生まれています。我々は、知的財産を持ったプロフェッショナル(専門人材)をネットワークしながら、彼らとパートナーシップを組んで成長していきます。

 最初に手掛けたのは私が元々いた映像ディレクターの世界でした。当時はフリーランスのディレクターの社会的地位は低く、能力があってもスポンサーともめたりすると極端に仕事が減るような弱い立場でした。彼らを支えることで、彼らの報酬や生涯価値を上げられるのではないかと思ったのが出発点でした。今では日本のテレビ番組の約半分は、当社が関係しているディレクターが作っています。

── 医師を派遣する民間医局にも取り組んでいます。

井川 阪神大震災の時、被災地の支援に欧米の医師は来ているのに、日本の医師は少なかった。その理由は、日本の医師は大学の医局に所属して、そこから派遣されるという仕組みにありました。医師に自由度がないことに疑問を持ち、医師のための民間医局の制度を作ろうとして「メディカル・プリンシプル」という会社を立ち上げました。現在、医師と医学生計15万3000人とネットワークしています。

 その後は、弁護士や会計士、一級建築士、科学者と、その人にしかできないような知的財産を持った人たちを中心にネットワークを作っていきました。また、そのネットワークの中で、例えばドクターとITエンジニアが組むことで、新しいアイデアも生まれています。ある大学と組んで手術の器具を作ったり、さらにそこにVR(仮想現実)の技術を組み合わせたりして、知財を有する製品をどんどん生み出しています。

── 新規事業の方針はいかがですか。

井川 現在18分野で展開していますが、将来的には50事業に広げていきます。我々は約4万8000社のクライアントとつながっていて、いろいろなニーズが寄せられています。新しいニーズに対して、知財を持っている人たちの組み合わせでいくらでもサービスを作れると思っています。

── 具体的にはどうしますか。

井川 昨年、本社内にクリエーティブスタジオを作りました。私の理想の一つでしたが、クリエーティブワークはテレビやゲームに限定する必要はなく、その発想がどういうメディアに合うかを考えていけば、もっとクリエーターの能力が開花できるのではないかということで、クリエーターを一堂に集めました。現在1800人のクリエーターが活動しています。

 さらに離れた場所にいても仕事ができるように、メタバース(仮想空間)で仕事ができる環境を作っています。メタバース上の一つの船に世界中のクリエーターが乗り込んで一緒にプロジェクトを進める仕組みで、9月の完成を目指しています。

新卒採用を強化

── 新たな中期経営計画を策定しました。

井川 前の3カ年計画を1年前倒しで達成したので、新しく3カ年計画を出しました。2026年2月期に売上高605億円、営業利益56億5000万円を計画し、16期連続の増収、7期連続の増益を目指します。達成のためにも今年4月に299人の新卒者を採用しました。来年は350人ぐらい採用する方針です。彼らの育成が会社の力を左右する大きな要素になると思います。全社員の10%に当たる人を採用します。それだけの人材を育てる力をようやく持てたと思っています。

── 育てる力とは何ですか。

井川 先輩が後輩をどう指導するかというより、まず会社の理念と事業の考え方を社員が共有することです。プロフェッショナルが当社と仕事をすることで、生涯価値が上がることを実感してもらうことが重要です。すべての活動が本当にプロフェッショナルのためになるかどうか。そして、プロフェッショナルの人たちの能力を使うことがクライアントのためになるかどうか。当社のその2枚軸を社員が理解するようにすることが育てる力です。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 会社を作って十数年たったころ、病気を患って3カ月ぐらい入院したのですが、退院して戻った時に会社の雰囲気が変わっていたことに気づきました。会社はすぐに変わってしまうものだと経営の難しさを感じました。

Q 「好きな本」は

A D・カーネギーの『人を動かす』や『道は開ける』です。成功する人は共通のエッセンスを持っていることが分かって、印象に残っています。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフや釣りをすることが多いです。釣りは船で海に出ます。


事業内容:TV・映画・ゲーム、医療、建築など18分野でプロフェッショナル・エージェンシー事業

本社所在地:東京都港区

設立:1990年3月

資本金:11億円(2023年2月末現在)

従業員数:2176人(23年2月末現在、連結)

業績(23年2月期、連結)

 売上高:441億円

 営業利益:39億円


週刊エコノミスト2023年6月27日・7月4日合併号掲載

2023年の経営者 編集長インタビュー 井川幸広 クリーク・アンド・リバー社会長

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