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経済・企業 2023年の経営者

業務用無線や車載製品で好業績――江口祥一郎JVCケンウッド社長

Photo 武市公孝:横浜市の本社で
Photo 武市公孝:横浜市の本社で

JVCケンウッド社長 江口祥一郎

えぐち・しょういちろう
 1955年佐賀県出身。佐賀県立鹿島高校卒業。早稲田大学商学部卒業後の79年、トリオ(現JVCケンウッド)入社。2005年ケンウッド(同)米法人社長などを経て、19年社長CEO。67歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 2023年3月期は営業利益が前年同期比2.4倍と大きく増えています。

江口 08年に当社の前身企業、日本ビクターとケンウッドが経営統合してから事業変革、拠点再編、原価の見直しをずっとしてきました。さらに新型コロナウイルスの感染が拡大した21年3月期には固定費や経費を徹底的に見直し、営業利益を残せたことで収益基盤を構築できたと思っています。しかし、22年3月期は半導体などの部品が入らなくなるサプライチェーン(供給網)の混乱がありました。事業体質がかなり改善した上で、サプライチェーンが落ち着いたことが23年3月期の結果につながっています。24年3月期は3500億円の売上高を見込んでおり、相応の利益を残せると思っています。

稼ぎ頭は北米の無線事業

── 売上高に占める車載製品の比率が大きいのですか。

江口 車載製品を含む事業分野の比率は59%でした。経営統合した08年の22%から高まっています。同年はリーマン・ショックがあった年。スマートフォンの出現もありました。「これでは立ち行かない」と考え、売上高の56%を占めていたビデオカメラ、テレビ、オーディオなどの民生事業を思い切って縮小すると決め、23年3月期には17%になりました。

 一方、力を入れたのは車載製品のOEM(相手先ブランドによる生産)、業務用無線システムなどの業務用事業です。事業売却や買収にも取り組み、事業ポートフォリオを大きく変革しました。

── コロナ禍の影響はどうでしたか。

江口 事業環境がドラスティックに変わりました。米中対立リスク、ロシアによるウクライナ侵攻、円安などがありますが、最も大きかったのはサプライチェーンの混乱です。22年春には中国・上海でロックダウン(都市封鎖)があり、通常のようには部品が手に入らなくなりました。

 今年4月に発表しました新中期経営計画「VISION2025」では、サプライチェーンを含めた事業基盤を見直して成長を加速させることにしました。また、市場からは資本の効率性を高める要請が日に日に強まっています。VISION2025では資本の効率性と事業の成長性がともに高い「成長けん引事業」、資本の効率性が高い「収益基盤事業」などを明確化しました。PBR(株価純資産倍率)1倍を早期に実現するため、投資家にも分かりやすい戦略と考えています。

── 稼ぎ頭は業務用無線システムだそうですね。

江口 最大の利益源です。とりわけ1983年に参入した北米で非常に安定的・継続的な収益基盤になっており、成長けん引事業に位置づけています。主な顧客は消防、救急、ハイウエーパトロールなど警察の公共安全市場です。安心・安全に対する意識の高まりを背景に政府予算が増えているほか、倉庫、工場、レストランなど民間の需要も伸びています。

 当社の製品が好調な背景には、防災やBCP(事業継続計画)を重視する機運が急速に高まっていることが挙げられます。そのほか、信頼性が高いメーカーが選別されていること、端末販売だけでなくソフトウエアやメンテナンスなどの収益が増えていること、利益率が高いことが挙げられます。

中国生産を減らす

── 車載製品はいかがですか。

江口 車載製品を含む事業分野の23年3月期売上高は1976億円。そのうち約1200億円は自動車メーカー向けのOEM、600億円弱はカー用品店で売る製品です。今、スピーカー、アンプ、ケーブルの海外向けOEMが非常に増えています。イタリア子会社の車載機器メーカーが欧州や中国の自動車メーカーに強く、受注が伸びています。

 ドライブレコーダーに関しては、当社は以前から車載製品だけでなく、ビデオカメラでつちかった手ブレ補正や絵づくりの技術を持っています。それが生きていると自動車メーカーからも高い評価を受けています。

── 6割に上る海外売上高比率は今後どう考えていますか。

江口 23年3月期の地域別売上高比率は日本38%、米州24%、欧州18%、アジア18%とバランスは悪くないと思っています。今は円安だから海外販売分はメリットがありますが、為替レートは変動するから大きく変えるのは得策ではありません。むしろ変えたいのは生産です。23年3月期の地域別生産比率が37%に上る中国をかなり減らし、15%の日本を増やしていきます。その理由は、一つは地政学的リスク、もう一つは投資家から要請がある人権や環境に関するリスクがあるからです。もちろん収益や採算性も大事ですが、自動化を進めながら変えていきます。

(構成=谷道健太・編集部)


横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 30歳で結婚後、イタリアに7年間駐在しました。現地法人の責任者として任され、感謝しています。衣食住も満喫しました。

Q 「好きな本」は

A 歴史書が好きです。司馬遼太郎『項羽と劉邦』(新潮文庫)が特に好きです。

Q 休日の過ごし方

A 喫茶店でコーヒーを飲みながらボーっとしたり、映画を見に行ったりします。最近は「ザ・ファーストスラムダンク」を見ました。


事業内容:車載製品、無線機などの製造販売

本社所在地:横浜市

創業:2008年10月

資本金:136億円

従業員数:1万6277人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:3369億円

 営業利益:216億円


週刊エコノミスト2023年9月12日号掲載

編集長インタビュー 江口祥一郎 JVCケンウッド社長

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