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週刊エコノミスト Online 2024年の経営者

不動産と顧客情報の資産を生かして成長へ――西山隆一郎・西武ホールディングス社長

Photo 武市公孝:東京都豊島区の本社で
Photo 武市公孝:東京都豊島区の本社で

西武ホールディングス社長 西山隆一郎

にしやま・りゅういちろう
 1964年神奈川県出身。同県立光陵高校卒業、87年横浜国立大学経済学部卒業、第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2009年西武ホールディングス入社。広報部長、経営企画本部長などを経て、23年4月より現職。59歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 2023年4月に社長に就任して1年がたちましたが、現在までを振り返ると。

西山 就任してからの1年はあっという間でしたが、(その前の2年を含む)3年間で捉えています。社長1年目は中期経営計画の最終年度で、この中計を策定したのが21年です。新型コロナウイルスで一番打撃を受けた21年3月期の決算を受けて、アフターコロナを目指して改革して回復する3年間でした。この間、全社員が一丸となって改革に取り組み、構造改革も進めてきましたので、ようやく西武グループは新たなスタート台に立ち、この4月からの24年度からが本当の勝負だと思っています。

── コロナ禍からの回復の状況はどうですか。

西山 まずホテル・レジャー事業は、当社の事業の中で最も回復が顕著です。需要の回復で特にインバウンド(訪日外国人)の回復の伸びが大きい。もちろん国内のお客様の人流も増えてきていますので、昨年12月の時点で室料収入はコロナ禍前を超えてきています。ホテルは高単価施策を取っており、ブラッシュアップしてきたおもてなし、質を上げたサービスに見合った価格で提供していくことが効いてきています。

── 海外展開については。

西山 「ザ・プリンス キタノ ニューヨーク」を昨年12月1日にリブランドオープンしました。もともとは「ザ・キタノホテル ニューヨーク」という米国で歴史のある老舗の日系ホテルでしたが、オーナー様にオペレーター(ホテル運営者)として選んでいただきました。今、国内外に80以上のホテルがありますが、今後10年ぐらいで250に増やしていきます。その半分は海外になるので、今回のザ・プリンス キタノ ニューヨークは大きな第一歩であり、これを成功させることが海外展開の橋頭堡(きょうとうほ)になると思っています。

沿線の顧客を掘り起こす

── 不動産事業については。

西山 不動産事業は改革途上で、24年度以降に本当の姿になっていきます。事業会社の西武リアルティソリューションズに旧プリンスホテルが持っていた資産などグループ内のさまざまな資産を移しています。その集約した資産をいかに開発するか、資産効率性の高い転換を図っていくかを精査しています。具体的な戦略は5月に発表予定の次の中計で打ち出します。資産をより流動化するために25年4月にアセットマネジメント会社を設立する予定です。資産を流動化して、リゾートや都市の開発に回していく不動産の回転型ビジネスに参入します。

 不動産事業が一つのプラットフォームとなり、ホテル・レジャー事業や都市交通・沿線事業など他の事業のコラボレーションの核になるイメージです。

── 資産の運用が鍵になると。

西山 資産という意味では、お客様の情報も資産になります。お客様の大切な情報はDX(デジタルトランスフォーメーション)のマーケティングに直結します。

 西武鉄道沿線の人口は550万人で、西武鉄道を毎日ご利用いただいているお客様は150万人います。またプロ野球の埼玉西武ライオンズのファンクラブの会員が約10万人。そして、もともとプリンスホテルを軸としてきた会員サービス「SEIBU PRINCE CLUB」の会員が170万人います。こういったお客様のデータマーケティング基盤が非常に大きな資産になります。これを生かしたマーケティングを事業会社の枠を越えて行っていきます。

── 都市交通・沿線事業については。

西山 観光やレジャーでの利用となる定期外収入は、ほぼコロナ禍前に戻りつつあります。一方で定期収入は大変厳しい状況で戻りきりません。コロナ禍前の約8割です。お客様や企業の行動変容で、リモートワークなど生活の多様化が定着してきています。定期収入は戻らないことを前提に事業を推進しています。定期収入は戻らないにせよ、沿線人口は550万人いらっしゃいますので、便利に快適に過ごしていただき、沿線人口を増やしていくことが重要です。街づくりでは、所沢駅西口(埼玉県)の元車両基地だった場所に大型商業施設が今年秋に竣工予定です。竣工すると乗降人員が3万人増えると試算しています。

 DXマーケティングとの関連では、スマートフォンで特急券を買ったりできる西武鉄道のアプリがありますが、これをSEIBU PRINCE CLUBと連携しました。SEIBU PRINCE CLUBでためたポイントを、1ポイント=1円で西武鉄道を利用できます。このサービスを始めた後、SEIBU PRINCE CLUBの会員が短期間で数十万人増えました。西武鉄道沿線のお客様の顧客創造機能を肌で感じましたし、大きな財産だと思います。だからこそ我々は沿線住民の期待に応え、より住みやすい街づくりを進めていきます。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 30代前半は第一勧業銀行で広報部に配属されて、がむしゃらに仕事をしていました。小説にもなった総会屋事件が起きて、登場人物の「4人組」のモデルになった方々の末席でサポートをしました。とにかく鍛えられました。

Q 「好きな本」は

A ダヴ・シードマンの『HOW』です。ビジネス倫理の本で、自分の考え方の軸になっています。

Q 休日の過ごし方

A 趣味は音楽鑑賞とスポーツ観戦。埼玉西武ライオンズはもちろん、サッカーJ1の川崎フロンターレはJ2の頃から好きで、試合を見ています。


事業内容:都市交通・沿線事業、ホテル・レジャー事業、不動産事業など

本社所在地:東京都豊島区

設立:2006年2月

資本金:500億円

従業員数:2万856人(23年3月現在、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:4284億円

 営業利益:221億円


週刊エコノミスト2024年4月30・5月7日合併号掲載

編集長インタビュー 西山隆一郎 西武ホールディングス社長

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