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経済・企業 2024年の経営者

CO₂フリー電源で脱炭素推進――菅野等・電源開発(Jパワー)社長

Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で
Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で

電源開発(Jパワー)社長 菅野等

かんの・ひとし
 1961年生まれ。山形県出身。同県立酒田東高校卒。84年筑波大学比較文化学類卒業、電源開発入社。設備企画部長、執行役員開発計画部長、同経営企画部長、取締役副社長執行役員などを歴任し、2023年6月より現職。社長交代は7年ぶりとなった。副社長執行役員の時には、コーポレート総括、エネルギー営業本部長、原子力事業本部副本部長などを担当。62歳

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 完全民営化から今年で20年です。民間企業として、エネルギー問題にどう取り組みますか。

菅野 特殊法人を経て2004年に完全民営化しました。地域独占だった日本の電力供給体制の中で、私たちはいち早く民間企業になりました。事業範囲も世界規模にまたがり、エネルギー関連会社の中で最も機動力がある企業グループだと自負しています。その機動力を生かし、エネルギー自由化の競争に打ち勝つ覚悟です。

── ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギーの安定供給が改めて課題になっています。

菅野 我々は石炭の一部をロシアに依存して輸入していましたが、1年かけてゼロにしました。そういう選択ができるのは他の選択肢があるためです。安定供給のためには、エネルギーの多様な選択肢を持つことが重要です。一方、原油の中東依存度が高い日本は現在、(イスラエルとイスラム組織ハマスとの対立で)不安定要因が顕在化しています。再生可能エネルギーや原子力、化石燃料の脱炭素化などに全て取り組んでいかなければなりません。加えて、地域内でエネルギーを自給自足するマイクログリッド(小規模電力網)や、送電線を整備して日本列島の地域間で電力を融通し合えるようにすることも不可欠です。

── 気候変動の国際会議(COP28)は23年末、「脱化石燃料」について初めて合意しました。安定供給と脱炭素化をどう両立しますか。

菅野 石炭を燃料に使う松島火力発電所(長崎県西海市)の2基(ともに50万キロワット)を、24年度末に休廃止します。うち1基は、燃焼時に二酸化炭素(CO₂)を出さず次世代燃料として期待される水素を活用した仕組みに改造します。全体では計100万キロワットから50万キロワットにサイズダウンしますが、運転に必要なスタッフの数は大きく変わりません。こうした縮小と再生を同時に進め、温室効果ガスの排出量から吸収量・除去量を差し引いて実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指します。

CCSを30年開始

── Jパワーの電源構成のうち、CO₂を出す石炭火力が4割を占めることに批判もあります。

菅野 炭素(C)を含む物資を燃やすと、酸素があれば必ずCO₂が発生します。これはあらゆる産業で共通する課題です。石炭火力発電所を廃止すれば気候変動が止まるわけではありません。私たちは、石炭火力発電所から大量にCO₂を排出しているという自覚があるからこそ、その処理に率先して全力で取り組む考えです。

── 具体的には?

菅野 政府も(CO₂を回収して地下に埋める)CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術について、今の通常国会で関連法案を成立させる方針です。ENEOSホールディングス、JX石油開発とともに、「CCS」事業を30年度までに開始します。CCSは発電事業にとっては非常に必要ですが、発電以外の分野でも重要です。つまり(原油などの)燃料を直接燃やしてエネルギーを生み出す必要がある産業でもCCSが必要だ、ということがだんだん浸透してきました。日本の産業界全体が、カーボンニュートラルに向けて真剣に取り組むようになったと感じます。

── 21年には、カーボンニュートラルと水素社会の実現に向けた「ブルーミッション2050」をまとめました。

菅野 再生可能エネルギーや原子力発電所といった「CO₂フリー電源」の拡大などによって、30年にCO₂の排出を13年度比で46%削減し、50年に発電事業の排出実質ゼロを目指しています。再生可能エネルギーについては、古い水力、風力発電所を更新するなどして環境負荷を減らすとともに、効率性をアップさせ、17年度比で150万キロワット規模の上積みを目指します。一方、大間原発(青森県大間町)の建設計画を進めます。

── 大間原発については、安全性を問題視する北海道函館市による建設差し止めの民事訴訟が長期化しています。

菅野 青森県の地元からは早期の運転開始を求められており、原子力規制委員会の審査を早くパスできるように全力で取り組みます。函館市にも事務所を設置し、さまざまな理解活動を展開しています。日本全体のカーボンニュートラル、エネルギーの安定供給という観点で、発電所の必要性を時間をかけて訴えます。

── 全炉心でプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使う大間原発は、国の核燃料サイクルの中核とされますが、再処理工場をはじめとしたサイクル政策自体は進んでいません。

菅野 外からでは見えにくいかもしれませんが、(再処理工場を運営する)日本原燃からは計画が進展していると聞いています。大間原発は審査書類の入力ミスで滞った時期がありましたが、動き始めています。ゴールに向けて一歩ずつ近づいていると感じます。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 事業の多角化を目指し、牡蠣(かき)の養殖や、ダムの流木から取り出した木酢液を使った基礎化粧品の販売など、数多くの新規事業に取り組みましたが、ほとんど失敗しました。テクノロジーでこういうことができれば売れるはずだ、といった思い上がりがありました。その教訓が今も役立っています。

Q 「好きな本」は

A リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』です。現在は進化論的なものの考え方が普及しましたが、その基になった書籍です。

Q 休日の過ごし方

A 図書館に通っています。


事業内容:再生可能エネルギー、火力発電事業、原子力発電事業など

本社所在地:東京都中央区

設立:1952年9月

資本金:1805億円

従業員数:7078人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:1兆8419億円

 営業利益:1838億円


週刊エコノミスト2024年3月12日号掲載

編集長インタビュー 菅野等 電源開発(Jパワー)社長

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