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週刊エコノミスト Online 2023年の経営者

オフィス印刷、レーザー代替で攻勢――小川恭範セイコーエプソン社長

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の「エプソンスクエア丸の内」で
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の「エプソンスクエア丸の内」で

セイコーエプソン社長 小川恭範

おがわ・やすのり
 1962年愛知県出身。愛知県立中村高校、東北大学工学部卒業。東北大学大学院工学研究科修士課程修了後、88年セイコーエプソン入社。技術開発本部長、取締役常務執行役員などを経て、2020年4月から現職。61歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 2024年3月期業績見通しは、売上収益(売上高)で前年度比3.7%増の1兆3800億円、事業利益で同5.1%増の1000億円を見込んでいます。家庭や小規模オフィス向けプリンターが主力の「プリンティングソリューション」の足元の業況は好調ですか。

小川 インフレの影響がかなり出ており数量面で少し厳しい状況です。プリンターや半導体の需要を見ていると、在庫の消化不足という問題を(情報機器業界の)各社が抱えているのがわかります。

 23年度第1四半期(23年4~6月期)は売上収益が前年同期比5.7%増、事業利益が31.1%減でしたが、通期業績見通しの予想線上で推移しています。ただ、収益は円安に助けられている要因もあります。

── 大容量のインクタンクの比率を高めることで、印刷コストを低減して、プリンター本体の価格を引き上げるビジネスモデルに転換する戦略ですが、これまでの成果と今後の展開はどうですか。

小川 20年春にコロナ禍が始まって在宅需要が急激に伸びました。コロナ禍のこの3年間で在宅勤務、在宅学習が広がり、オフィスでの印刷需要が家庭に流れ、それに伴って大容量インクが重宝されました。コロナ以前は発展途上国で大容量インクの需要が伸びる一方で、先進国ではなかなか伸びませんでした。そこにコロナ禍が起きて、かつ北米での販売促進策が功を奏して、大容量タンクの比率がインクカートリッジの比率を完全に上回る状況になっています。

── オフィス向けで主流のレーザープリンターをエプソンが得意とするインクジェットに置き換えを狙っていますね。

小川 電力消費量の点で、レーザープリンターに比べてインクジェットは圧倒的に効率的で、環境性能に優れています。部品(トナー)の交換のために、販売ディーラーの保守担当者が顧客のオフィスを訪問する手間を省くことができる点も好評です。今年投入した売れ筋商品の評判がよく、今後、この分野はどんどん伸ばしていきたいと考えています。

印刷は集中から分散へ

── コロナの3年間をどう総括しますか。

小川 在宅勤務・在宅学習が定着したことで、当社のプリンティング需要を拡大する戦略を後押ししました。当社はオフィスよりも家庭用あるいは小さいオフィス向けのプリンターを得意としています。オフィスの印刷がSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)に分散したことで当社の強みを生かすことができるわけです。

 この3年間に海外での工場閉鎖や半導体など部品不足、物流費の非常な高騰と、逆風がありました。ただ、同業他社各社も似たような状況だったので、価格競争に陥らなかったことは業績面でもプラスでした。当社の「長期ビジョンEpson25Renewed」(21年3月発表、22年4月更新)でも「集中から分散へ」というキーワードを打ち出しています。印刷だけでなく、生産体制も集中から分散が加速すると考えています。

── ペーパーレス化といわれて久しいですが、想定したペースほど速くないのでは。

小川 急激に来る可能性もあるのでいろいろ準備はしています。ただ、紙の印刷需要は年率3~4%の落ち込みで、我々が心配したほどではないことも確かです。コロナ禍で印刷需要がオフィスから家庭に流れている分、当社の印刷量は減っていません。ただ、いつ崖のような落ち込みが来るかは分かりませんので、準備は進める必要はあります。当社のもう一つの柱である「商業・産業プリンティング」では、衣類などの紙以外への印刷を進めています。

 商業・産業プリンティングで手掛けるデジタル印刷は、いまもまだ主流のアナログ印刷に比べて、環境負荷の軽減にも貢献するし、作業現場の労働環境の改善に寄与することができます。

── 以前に26年3月期に売上収益1兆7000億円(24年3月期予想1兆3800億円)、事業利益2000億円(同1000億円)との長期計画を掲げていましたが、この扱いはどうなっていますか。

小川 21年に長期ビジョンを見直し、1兆7000億円と2000億円の目標達成は困難として取り下げました。過度に売り上げの上昇を狙うのではなく、利益率をしっかり出そうということで、25年度にROE(株主資本利益率)13%以上(23年3月期実績10.8%)、ROIC(投下資本利益率)11%以上(同7.1%)、ROS(営業利益率)10%以上(同7.1%)という数値を示しています。

 したがって以前のように売り上げを全ての事業で成長を狙うことはやめて、時計やプロジェクターといった事業構造改革領域は、売り上げが横ばいでも利益を出せる体質にしていこうという考えです。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 社長就任と同時に襲ったコロナ禍です。2020年4月はインドで売り上げがゼロになりました。

Q 最近買った物は

A ウクレレです。去年秘書の結婚式があって歌と演奏を披露しました。

Q 時間があればしたいことは

A 旅行です。海外にもいろいろな場所に行きたいです。


事業内容:インクジェットプリンター、プロジェクター、産業用ロボット、電子デバイス、腕時計などの製造販売

本社所在地:長野県諏訪市

設立:1942年5月

資本金:532億円

従業員数:7万9906人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期)

 売上高:1兆3303億円

 営業利益:970億円


週刊エコノミスト2023年9月19・26日合併号掲載

編集長インタビュー 小川恭範 セイコーエプソン社長

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