経済・企業2023年の経営者

マッチングで医師不足解消に貢献――小川智也MRT社長

Photo 武市公孝:東京都渋谷区の本社で
Photo 武市公孝:東京都渋谷区の本社で

MRT社長 小川智也

おがわ・ともなり
 1973年生まれ。三重県出身。同県立神戸高校卒業、2002年大分医科大学(現大分大)医卒。国立病院機構大阪医療センター救命救急センターなどを経て、11年MRT取締役事業本部長に就任。英ウェールズ大学大学院で学び、経営学修士(MBA)を取得。副社長などを経て19年から現職。50歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 医師の紹介というビジネスモデルが生まれた経緯は?

小川 医師は複数の医療機関で働くことが一般的です。例えば大学病院勤務の医師でも、別の日には他の総合病院などで外来診療を受け持っています。こうした医師同士の勤務を管理、調整しようと、東京大学医学部付属病院で「互助組織」が生まれ、2000年に有限会社として「メディカルリサーチアンドテクノロジー」が設立されたのがMRTのはじまりです。医師は限られた人的資源である一方で、ニーズはどんどん広がっています。当初は東大病院の若手医師がエクセルで勤務調整をこなしていましたが、次第に他の医療機関の医師からの登録が増えて規模が大きくなり、システム化して今のMRTの姿になりました。医師や看護師ら、医療従事者の会員数は29.7万人。取引先医療機関は1.8万カ所で、医師と医療機関のマッチング件数は年間15万件に達しています(22年12月現在)。

東大病院から誕生

── 11年にMRTに入社しました。きっかけは?

小川 私自身もMRTの会員で救命救急医でした。大阪から東京に来て救命救急に関わっていましたが、医療の考え方や仕組みが非常に異なることに気がつきました。大阪の医療機関は病床がいっぱいでも困っている患者がいれば受け入れるのに対し、病院が多い東京では、自分たちで受け入れられない場合はすぐに他へ依頼するといった違いを目にしてきました。

 日本の医療制度は国民皆保険制で、基本的には公平な医療を提供するということですが最悪の場合は患者のたらい回しにつながる恐れがあります。こうした医療制度が抱える問題を改革できないかと考え、経営学を学び直そうと英ウェールズ大学大学院に入学しました。こうした改革は医師や医療機関だけではできないと感じたためです。大学院で出会ったのがMRTの幹部で、「医療を想い、社会に貢献する」という姿勢に意気投合しました。

── 22年12月期は売り上げ、営業利益とも前期比約2倍となりました。20年以降、新型コロナは業績にどう影響しましたか。

小川 全国の医療機関に医師を紹介していましたが、20年初めは感染拡大でコンタクトレンズのクリニックや健診センターの業務が全面ストップし、収益的には創業以来の危機的な状況に陥りました。ただし、コロナ禍こそ医師の役割が一層重要になります。従来と違う形で医療に貢献できないかと考え、コロナ禍では自治体の新型コロナワクチン接種や企業の職域接種に会員の医師を紹介する業務をスタートしました。また、自宅療養者の支援や陽性者登録センター、オンライン診療センターなど自治体が実施している業務を受託するサービスも始めました。医療崩壊が懸念されている中、コロナ対応に業務を集中しました。

オンライン診療を活用

── コロナ後の経営戦略はどう考えていますか。

小川 新型コロナ対応をきっかけに、関係省庁や都道府県、市区町村といった自治体との関係がとても深くなりました。全国の自治体は医療過疎地域の問題などを抱えており、当社のオンライン診療アプリを通じてこうした課題の解決に貢献できないか考えています。ただし、感染が落ち着いたといっても、自宅療養者のサポートや発熱センターの業務は続いています。引き続き自治体のコロナ対応の支援を継続していきます。また、コロナ禍で、感染対策を担う保健所の役割が一層重視されています。保健所機能を支援するサービスについても検討しています。

── 今後の事業展開についてどう考えていますか。

小川 MRTの取締役の過半数は医師で、医師目線でサービスを提供できるのが私たちの強みです。医療サービスをもっと充実させるためにも、医師の会員割合を上げることが第一の課題です。東大発の企業でもあり関東中心に事業展開をしていますが、関東以外にもサービスを広げることが重要と考えています。まず医師が比較的多い関西、九州などを中心に営業所を設けることを目指しています。一方、医師不足に悩む自治体は全国に存在します。医療崩壊を起こさない手立てとしても、支店を全国的に広げていく方針です。

── 海外進出の見通しは?

小川 日本のように人口が増えて医療ニーズが高まるとともに、医師が不足する問題はアジア各国でも起こると考えています。また、オンライン診療や電子カルテ化など医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れている地域もあります。具体的には、ベトナム、インドネシアで海外展開を目指しています。フィリピンやカンボジア、バングラデシュなども今後医療ニーズが一層高まるとみており、注視しています。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 救命救急にどっぷり浸かっていました。ビジネス面では本当にひよっこでした。

Q 「好きな本」は

A ウィリアム・オスラー博士の『平静の心 オスラー博士講演集』です。

Q 休日の過ごし方は

A 今も医療現場で診察しています。医療現場の「気付き」を本業で生かすことができます。


事業内容:医師や看護師の職業紹介など、医療人材情報のプラットフォーム提供

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2000年1月

資本金:4億円

従業員数:153人(2022年12月末)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:87億円

 営業利益:29億円


週刊エコノミスト2023年10月3日号掲載

編集長インタビュー 小川智也 MRT社長

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