空調や半導体が好調、自動車は分社化――漆間啓・三菱電機社長
三菱電機社長 漆間啓
うるま・けい
1959年生まれ。大分県立大分上野丘高校卒業、82年早稲田大学商学部卒業。同年三菱電機入社。2015年常務執行役、18年専務執行役を経て21年7月から現職。大分県出身。64歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 今年度(2024年3月期)の連結業績予想では売上高5兆2000億円、営業利益3300億円と過去最高を予想しています。好調の理由とは。
漆間 主力のエアコンとFAシステム(ファクトリーオートメーション、工場生産の自動化)は、中国経済減速の影響は受けていますが、それ以外の地域がけん引しています。また、昨年度(23年3月期)は赤字(営業赤字462億円)だった自動車機器が今年度は黒字(営業利益70億円)に転じる見込みです。昨年度に半導体不足に直面しましたが自動車メーカーは、今年度は半導体を調達できるようになり、車の生産が回復して当社の自動車事業も収支が改善したことが大きな要因です。
半導体事業も好調です。主力のパワー半導体は、シリコン製の製品の受注と受注残が高めに推移しており、この事業は計画よりも大幅にプラスで推移しています。
── 逆に課題に直面している分野はどこですか。
漆間 伸び悩んでいるのは電力関係、社会システム、鉄道、公共事業的な部門です。通期で赤字にはなりませんが、例えば鉄道事業であれば新造車が大きく減っています。また公共向けの設備管理など、地方自治体(の財政運営)が厳しいことも影響して(収益の)伸びを欠いています。
── 空調・家電事業は、脱炭素化に向けた省エネルギー需要が底堅いと思いますが、どういう製品が伸びていますか。
漆間 ヒートポンプ(空気中の熱エネルギーを集めて空調や給湯に使う機器)です。大幅な省エネが可能です。欧州では、冬季にはボイラーを暖房に使います。各国政府が補助金を出して、石油・ガスを使うボイラーから、(電気を使う)ヒートポンプ式に変えることを奨励しており、新築の住宅ではこの方式にどんどん入れ替わっています。米国でも同様にヒートポンプ化への動きが出ています。
── 中国では不動産バブルが弾けたと言われていますが、空調や昇降機、FAといった事業にどのような影響が出ていますか。
漆間 空調や昇降機などの事業に対してですが、大手不動産グループの経営危機に関連して大きな影響はありません。23年7~9月期の中国向け売り上げは対前年同期比17%減でした。マイナスの要因がFAの減速です。やはり経済減速の影響を受けています。一方で、中国の10月の受注動向を見ると、(精密部品製造に使われる)NC制御装置の受注が急激に上がりました。携帯電話製造用に出荷することが多く、携帯需要が回復すると、半年後にFAが回復します。したがって、今後に期待できそうです。
事業強化のための再編
── パワー半導体は21~25年度で2600億円の設備投資を行う計画であり、熊本県菊池市に1000億円を投じて新工場を建設します。その狙いとは何ですか。
漆間 SiC(炭化ケイ素)ウエハーを用いたパワー半導体の強化です。EV(電気自動車)向けで成長が見込まれます。熊本の新工場はSiCパワー半導体の一貫生産を実現します。23年10月には米コヒレント社がSiC事業のために分社化する事業への出資(5億ドル=約720億円)も発表しており、体制を強化しています。
── この領域における国際競争をどう見ていますか。政府は国内メーカーが再編するべきだと考えているようですが。
漆間 当社はモジュール(複数のパワー半導体を集積した部品)に強みがあります。顧客の要請に応じてパッケージ化したものを供給しています。パワー半導体でいま世界首位はドイツのインフィニオン社ですけど、当社が追いつくことができる領域がモジュールです。この分野は日本メーカーが世界で勝てる製品であり、国内勢が連携協業することによって、もっと強くなれないかと考えながら取り組んでいます。
── 自動車機器事業を24年4月に分社化します。三菱電機で大きな事業でしたが、ここに踏み込んだ決め手は何だったのですか。
漆間 20~22年度の3年間で巨額の赤字(合計985億円)を計上したことが背景にあります。23年7~9月期で自動車事業が黒字化したのは、分社化によって退路を絶ったことで従業員が必死になったことが大きいと思います。顧客に対して材料の高騰分を転嫁できるように値上げを要請しつつ、取引を継続してもらっています。
── 自動車産業の電動化に進む中で、自動車機器分野で同業他社との協業を模索するということですか。
漆間 EVでは、自動車部品はコモディティー化(汎用(はんよう)部品化)します。1社で開発費を投入して生産力を拡張していくのは非常に難しいと判断しました。同業他社と一緒になって、双方の資金を投じて事業を大きくするのが狙いです。すでに協業に向けて何社かとは交渉しています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまでのビジネス人生でピンチだったことは
A 30歳代に社長室(現・経営企画室)の部署に配属されました。全社の組織改編や研究所のあり方とか、発想が出ず、19歳年上の直属の上司から叱責され、会社を辞めようかとも思いました。
Q 好きな本は
A 森信三の『修身教授録』(致知選書)です。戦前の師範学校での講義録で一日一日をどう生きていくのか、意志を強くしていく本です。
Q 休日の過ごし方は
A 土曜は顧客とゴルフすることが多いです。日曜はストレッチ体操やウオーキングなど身体のメンテナンスに費やしています。
事業内容:総合電機メーカー
本社所在地:東京都千代田区
設立:1921年1月
資本金:1758億円
従業員数:14万9655人(2023年3月末、連結)
業績(23年3月期、連結)
売上高:5兆36億円
営業利益:2623億円
週刊エコノミスト2024年1月9日・16日合併号掲載
編集長インタビュー 漆間啓 三菱電機社長