半導体工場の新設が追い風――小島和人・高砂熱学工業社長
高砂熱学工業社長 小島和人
こじま・かずひと
1961年愛媛県出身。愛媛県立南宇和高校卒業。84年山梨大学工学部を卒業し、高砂熱学工業入社。2015年横浜支店長、18年大阪支店長、19年取締役、20年社長。62歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
─ 事業内容をご説明ください。
小島 ちょうど100年前の1923年、温度、湿度、清浄度をコントロールする空調設備が今後、日本で普及すると考えた初代社長の柳町政之助が創業しました。高度経済成長期は世界貿易センタービルディングや京王プラザホテルの建設の際に効率的な冷房装置、さらに東京ドームの膜を膨らませる技術を開発するなど、空調システムを設計・施工してきました。最近は九州や北海道で建設が活発な半導体工場のクリーンルーム、電池工場に必要となる湿度のない部屋「ドライルーム」の需要が高まっています。
── 空調機器自体を製造しているのではないのですね。
小島 ダイキン工業やパナソニックのようにエアコンを作っているのではありません。オフィスビル、ホテル、大学、病院、工場といった大規模な建物内の空調設備、配管、ダクトなどの設計、施工、保守・メンテナンスを請け負っています。
── 超先端半導体工場のクリーンルームには何が必要ですか。
小島 かつては空気の清浄度を高めることが主眼でしたが、今は省エネルギーやカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に役立つ技術がないと施主から選ばれません。北海道千歳市で半導体工場を建設中のラピダスからクリーンルームの設計や施工の受注を予定しているのも、当社が「TCR-SWIT」という空調と省エネの性能に優れた機械を開発して特許を取ったことが理由だと思います。
── 2023年3月期決算は増収増益でした。どんな背景がありますか。
小島 一つは、20年の社長就任後、受注戦略を大きく変えたことです。建設業で働く人や協力会社が減る中、支店間で売上高を競うのではなく全社で利益が出る仕事を選ぶようにしました。23年5月に公表した23~26年度の中期経営計画では、建設業で初めて売上高の目標を外しています。
もう一つは、当社が「産業系」と呼ぶ工場の案件、それにビルのリニューアル工事に注視したことです。施主から直接仕事を請け負うことが多く、生産性が高いからです。20年に方針を変え、22年後半から効果が出てきました。
── 海外の売上高が増えたことも増収増益の理由だそうですね。
小島 コロナ禍で新規案件が止まっていたマレーシアやタイの産業系が22年に回復しました。海外売上高比率は年によって12~18%です。今の中計では、ベースとなる国内を中心に稼ぐ力を盤石にし、次の中計では海外に力を入れます。
北海道で水電解装置
── 中計で注力すると掲げたカーボンニュートラル事業はどんなものですか。
小島 水を水素と酸素に分ける「水電解装置」という新技術を96年から研究し、22年に第1号案件として北海道石狩市で稼働しました。これは太陽光発電の余剰電力を使って水電解装置を動かし、水素を製造してためておくという事業です。北海道では18年、大地震が発生した直後にブラックアウト(全系統停電)が起きたことから、非常用電源に対する意識が高いのです。
停電時には水素から製造した電気を避難所となる道の駅や学校に供給します。地元で作ったエネルギーを基に水素を作る「地産地消」です。太陽光に由来する「グリーン水素」であり、国のカーボンニュートラルの目標に合致しています。石狩の事業とは別に複数の引き合いがあります。中計ではグリーンエネルギー5000キロワット相当を提供することを目標に掲げました。水電解装置の大型化に向けて研究・開発を進めています。
── 11月に創業100年を迎えたそうですが、次の100年に何を目指しますか。
小島 5月に公表した「長期ビジョン」で「建物環境のカーボントランジション(低炭素への移行)」に継続して取り組むと掲げました。建設過程での二酸化炭素の排出削減、建物運用の環境負荷低減、産業・都市インフラの整備・維持といったことです。それに加えて「地球環境のカーボンニュートラル」にも取り組みます。22年を通じて社員とワークショップをしたりして語り合い、「環境革新で、地球の未来をきりひらく」という存在意義を決め、次の100年はそれに合うことをしっかりやっていきます。
── 残業時間の上限規制が強化される「2024年問題」への対応はどうですか。
小島 「ヒトではなくモノを動かす」という考えで22年、埼玉県八潮市に「T-Base」と名づけた施設を設けて建材や空調機器などを組み立て、現場に運ぶようにし、残業時間を減らすことができました。今と同じ方法では達成できません。
(構成=谷道健太・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 27歳ごろから現場所長を務め、32歳でクラシックホールの現場所長として忙しく過ごしました。
Q 最近買った物は
A 発展途上国の人たちが作った「マザーハウス」のビジネスバッグが好きで、四つ目を買いました。
Q 時間があったらしたいこと
A 18歳まで鉄道もない愛媛県愛南町という小さな海辺の町で育ち、静かな海に行くと落ち着くんです。また行きたいですね。
事業内容:空調設備の設計・施工
本社所在地:東京都新宿区
創業:1923年11月
資本金:131億円
従業員数:5885人(2023年3月末、連結)
業績(23年3月期、連結)
売上高:3388億円
営業利益:153億円
週刊エコノミスト2023年12月26日・2024年1月2日合併号掲載
編集長インタビュー 小島和人 高砂熱学工業社長