クールなビールを世界に届ける――勝木敦志・アサヒグループホールディングス社長
アサヒグループホールディングス社長 勝木敦志
かつき・あつし
1960年北海道生まれ。北海道岩見沢東高校卒、青山学院大学経営学部卒業。84年ニッカウヰスキー入社。海外営業などを経験し2002年アサヒビール転籍。14年豪州事業最高経営責任者(CEO)、16年アサヒグループホールディングス執行役員を兼任。常務、専務兼最高財務責任者(CFO)などを経て21年3月から現職。64歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 2023年12月期連結決算は売上収益、事業利益ともに過去最高です。背景は?
勝木 創業以来、国内ビール事業がメインでしたが、生産年齢人口の減少もあり、1995年から国内ビール市場は縮小し始めました。2009年ごろから、海外でM&A(合併・買収)を本格化させ、16、17年に西欧や中東欧の、20年にはオセアニアのビール事業を買収しました。日本事業の奮闘に加え、海外の成長を得ることができています。新型コロナウイルス禍の影響からも世界的には21年から回復を始め、23年は海外事業が売上収益全体の50.5%、事業利益も65.6%を占めています。一方、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱など、コストアップが続いています。22年には14年ぶりに国内ビール類を値上げしました。商品のプレミアム(高級)化なども業績に寄与しました。
グローバルブランド五つ
── 海外の注力ブランドは。
勝木 「グローバルブランド」と称し、世界展開を図っている五つの商品があります。オランダの「Grolsch(グロールシュ)」は1615年に始まり、400年以上の歴史を持ちます。また、イタリアで1846年に発足した会社の「Peroni Nastro Azzurro(ペローニ ナストロアズーロ)」に、150年の歴史をもつチェコ発の「Kozel(コゼル)」。そして、世界のピルスナービールの元祖、1842年に発売開始された「Pilsner Urquell(ピルスナー・ウルケル)」があります。これら四つは16、17年の買収で当社に加わりました。
そして「アサヒスーパードライ」です。ボリュームが大きいのはペローニ ナストロアズーロとの二つで、「非常にクールなビール」と受け止められています。
── 23年のラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会でのスポンサーは印象的でした。
勝木 W杯を中心としたプロモーション活動で、アサヒスーパードライの23年の売り上げ(販売数量)は前年比でフランスで90%増、日本以外の世界全体では35%増と「爆発的成功」を収めました。
── 世界での今後の目標は。
勝木 日本に加え、欧州、オセアニア、東南アジアで基盤を確立してきました。今後は各地域、各事業のシナジー(相乗効果)で、単純合計を超える成長を図りたい。一段のグローバル化を目指す上で最重要の場所は北米です。24年1月に米ウィスコンシン州のビール工場を買収しました。欧州や日本から輸出していましたが、新鮮なビールを届けられるようになりました。輸送面でもコストや二酸化炭素削減につながります。中国は消費者がプレミアム志向になりつつあり、アサヒスーパードライを中心に伸ばしていきます。
── 日本国内の今後の市場をどのように見ていますか。
勝木 (第3のビールの税率が発泡酒と同じ水準に上がるなどの)酒税改正により(消費は)ビールにシフトしており、ビールに強みを持つ当社には追い風です。21年に発売した、ふたを開けると泡が自然に湧き上がる「生ジョッキ缶」や22年のアサヒスーパードライのフルリニューアルが成功し、それらで捉えきれない層を「マルエフ(アサヒ生ビール)」で捉えるという良い流れができています。
── コロナ禍で消費者の生活スタイルも大きく変わりました。
勝木 マーケティングに力を入れ、消費者のニーズをデータで判断し、リスクを取れる組織になりました。小さい成功を認める文化が育ち、消費の多様化の対応につながっています。市場が拡大しているクラフト型レモンサワーでは、缶のふたを開けるとレモンスライスが浮かび上がる「未来のレモンサワー」を(高価格帯で)発売します。機能の高い商品を次から次へと出していきたいです。
── 飲料事業や食品事業で注力していきたいことは何ですか。
勝木 世界のビール大手ら強豪に比べ、当社は飲料と酒類、両方のケイパビリティー(能力)を持つ強みがあります。中長期的には、低価格ではない、成人向けの清涼飲料を伸ばしていきたい。一方、今年は「三ツ矢サイダー」が発売から140周年、ウィルキンソンが120周年です。消費者に長く愛されているブランドと知っていただければと注力しています。食品分野では、独自技術の酵母や乳酸菌を生かした新商材、新サービスを追求していきたいですね。
── 執行体制も特徴的です。
勝木 世界展開に対応すべく、経営戦略会議にはグループホールディングスの役員に、世界の4地域の事業会社のCEO(最高経営責任者)も加えています。意思決定システムも、日本式に海外式を組み合わせたものを作りたいと改革してきました。組織の縦の指揮命令系統を維持しつつ、財務、人事、成長、サスティナビリティー、R&D(研究開発)と経営で重視したい5機能の担当役員を置き、各地域、各事業に優先した戦略も展開させる体制にしました。組織体制は走りながら変化させていきます。
(構成=荒木涼子・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 2011年にオセアニアで一気に4件の買収を担当しましたが、うち1件で売り手側に財務情報をだまされ、損を出しました。その後、訴訟で和解しましたが、当時は本社からも怒られ、ピンチでした。
Q 「好きな本」は
A 黒木亮の小説です。特に『青い蜃気楼(しんきろう)』と『赤い三日月』は、各主人公が対照的に描かれていて面白い。
Q 休日の過ごし方
A 最近はずっと仕事で機会が無いですが、料理をします。
事業内容:ビールを中心とした酒類、飲料、食品などの製造・販売
本社所在地:東京都墨田区
設立:1949年
資本金:2202億1600万円
従業員数:2万8724人(2023年12月末現在、連結)
業績(23年12月期〈IFRS〉、連結)
売上収益:2兆7690億9100万円
事業利益:2636億8000万円
週刊エコノミスト2024年5月28日号掲載
編集長インタビュー アサヒグループホールディングス社長 勝木敦志