経済・企業 2024年の経営者

自販機の持続可能な仕組みを進化――高松富也・ダイドーグループホールディングス社長

Photo 武市公孝:東京都港区のダイドードリンコ東京オフィスで
Photo 武市公孝:東京都港区のダイドードリンコ東京オフィスで

ダイドーグループホールディングス社長 高松富也

たかまつ・とみや
 1976年奈良県出身。大阪星光学院高校卒業、2001年、京都大学経済学部卒業後、三洋電機入社。04年ダイドードリンコ入社。08年取締役、12年副社長を経て、14年から現職。47歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 足元の事業の状況は。

高松 グループ全体では新型コロナウイルス禍から回復してきて、2024年1月期は対前年比で大幅な増収増益となりました。国内飲料事業では、一昨年10月から3回にわたった価格改定が大きい。これまで、飲料業界、自動販売機は固定的な価格が続いていたが、さすがに原材料費が上がって、競合も含めて値上げに踏み切り、価格設定の自由度が高くなった。値上げの分、消費者が離れた部分はあったが、値上げの効果が上回り、利益は改善しました。

 また、国内飲料事業では、昨年、アサヒ飲料と合弁で、自販機オペレーションの新会社「ダイナミックベンディングネットワーク」を設立しました。我々の販売会社3社とアサヒ飲料の子会社3社が統合しました。

── ダイナミックベンディングネットワーク設立の狙いは。

高松 全国での自販機の稼働台数は減少傾向にあります。一方で、自販機を維持するコスト、人件費は上昇基調にあり、自販機のネットワークを維持することはだんだん難しくなってくる。その見通しの中で、我々はITを活用して、効率よく自販機をオペレーションする「スマートオペレーション」の取り組みを進めてきました。これを1社だけで行うよりも規模を大きくしたほうが効果は上がるので、手を組めるところとは組んでいこうということでアサヒ飲料と思惑が一致しました。両社の自販機を共同で運営し効率を高めて、自販機ネットワークの持続可能性を高めていくことが狙いです。昨年は業務のシステムをアサヒ飲料側に導入して、ベースとなる仕組みを統一したので、今年度からはスマートオペレーションの仕組みを段階的に導入していきます。

── 自販機ビジネスで勝ち残るための強みは。

高松 スマートオペレーションのノウハウだと思います。自販機1台ごとの売り上げを分析し1日の全体の売り上げを最大化する経験則的なノウハウに加え、ITを活用して、精度を高くしたり平準化したりしています。これをさらに突き詰め、すべての自販機をオンライン化してデータを収集し、そのデータをAI(人工知能)が分析して、製品の搬入を最適化する。今後もこの仕組みを進化させていきます。

 また、他社は飲料を売る自販機という位置づけだと思いますが、我々は自販機の設置場所で利用する人の役に立つ「店舗」と位置付けています。もちろん飲料の販売はメインでやりますが、それ以外にもその場所で需要がある商品を販売できるようにしていきます。例えば、子育て支援自販機という名目で、ショッピングセンターのベビーコーナーなどに赤ちゃん用の紙おむつを売る自販機を設置していて、数百台稼働しています。その他には女性用生理用品の自販機や、スナックを販売する自販機なども展開しています。

第2、第3の柱を伸ばす

── 海外の飲料事業については。

高松 海外事業の主力はトルコの事業ですが、トルコへの依存度が高いことが問題です。それを補うため、昨年末、ポーランドの飲料会社の買収を発表しました。まずはポーランド国内の事業をしっかり伸ばして、ゆくゆくは欧州市場へ拡大する足掛かりにしていきたいと思っています。

── その他の事業については。

高松 医薬品事業は非常に堅調です。パウチ容器のゼリー飲料の引き合いが強く、売り上げをけん引しています。26年ごろの稼働を目標にゼリー飲料の生産ラインの増設を検討しています。また、たらみのフルーツゼリーなどの食品事業も堅調です。

── 希少疾病医薬品も手掛けています。

高松 新規事業として長期的に取り組んでいます。研究開発の投資期間中ですが進捗(しんちょく)は順調です。最初の製品として、ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)対象の医薬品の商品申請を行いましたので、上市(市販)への最終段階に入っています。これに続く製品の開発も進めていきます。

── 社長に就任して10年がたちました。

高松 この10年間なかなか苦労しましたが、まだまだという思いが強いです。軸足である自販機を中心として国内の飲料事業を持続可能なものにしていくことを最優先課題として取り組んできましたが、本当の意味での成長軌道にはまだ乗っていない。ただ、その道筋は少しずつ見えてきたので、国内の自販機の事業を盤石にしていくことが今後も一番の課題だと思います。これまでも国内飲料事業で稼いだキャッシュを元に第2、第3の事業の柱として育てる取り組みを進めてきました。一つは海外事業が形になってきており、あとは食品や医薬品など、飲料以外の事業をどう伸ばしていくかが今後のテーマだと思っています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 5~6年前に自販機の台数が減り始めて危機感を感じました。収益を重視しすぎたことで、台数が減って売り上げが下がり、さらに収益が悪化するマイナスのダウンサイクルに陥りそうになっていました。売り上げ成長を軽視してはいけないと痛感しました。

Q 最近買った物は

A ランニングの延長で山に登ったり走ったりしますので、そのためのアウトドアシューズを買いました。

Q 社長業とは

A 人生というと大げさですけど、24時間全て社長業に費やしている感じです。


事業内容:清涼飲料、医薬品などの製造・販売

本社所在地:大阪市北区

設立:1975年1月

資本金:19億2400万円

従業員数:5182人(2024年1月現在、連結)

業績(24年1月期、連結)

 売上高:2133億円

 営業利益:37億円


週刊エコノミスト2024年6月4日号掲載

編集長インタビュー ダイドーグループホールディングス社長 高松富也

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