海外で「AZUKI BAR」を拡大――大西安樹・井村屋グループ社長
井村屋グループ社長 大西安樹
おおにし・やすき
1959年三重県出身。同県立宇治山田高校卒業。82年関西学院大学法学部卒業、井村屋製菓入社。2008年執行役員・経営企画統括部長。10年上席執行役員・経営戦略部長。11年IMURAYA USA出向。14年常務・井村屋グループ部門副統括。15年常務・同統括。16年社長。19年井村屋スタートアッププランニング出向。23年4月から現職。65歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 昨春の社長再登板から約1年半が経過しました。
大西 新型コロナウイルス感染症が昨年5月に感染症法上の5類に移行し、人の動きが出て、消費環境が変わるというタイミングでした。一方で、原材料価格などの高騰により、コストダウンや価格改定も必要になっていました。周囲の努力により、目指していた業績を達成できたと考えています。
── 2024年3月期の業績は増収増益で過去最高でした。主要原材料である小豆の価格高騰の影響があった19年度以降、業績は順調に伸びています。
大西 設備投資をコンスタントに実施した効果が出てきています。昨年度は調味料事業で新工場のスプレードライヤー(噴霧乾燥機)が稼働開始し、冷凍和菓子の製造ラインも新設しました。
── 今年度から3カ年の中期経営計画では、いずれも過去最高の売上高550億円、営業利益33億円、海外事業売上高比率8.8%を目標に掲げていますね。
大西 国内では新たな設備投資を実施予定で、中計ではこうした積み上げを見込んでいます。一方で、海外の売上高のウエートを高めていくというのも一つの軸として考えています。
── 主力商品の「あずきバー」は昨年、発売50周年の節目を迎えました。
大西 50周年の企画として原材料を含めた見直しをしました。コーンスターチを原材料から抜き、砂糖、小豆、水あめ、食塩という、よりシンプルなものにしました。特に海外市場では、材料がシンプルになればなるほど評価されます。あずきバーシリーズの抹茶とミルクについても、使用するお茶やミルクのグレードを見直し、よりおいしくするリニューアルを実施しました。
また昨年は、1973年の発売当時の原料や配合、パッケージデザインを再現した復刻版も数量限定で発売しました。こうしたバラエティーがあってもいいのかなと思います。海外での展開も広がっており、徐々に伸ばしていきたいと考えています。
── 冷菓事業では最近、冷凍食品のたい焼きを発売しましたね。
大西 オリジナルの皮のための粉を作り、あんも糖度にこだわり、「たい焼き屋さんのたい焼き」を意識して作りました。計画前倒しで順調に来ています。当社が持っている技術を集約し、満を持して出したということが評価されているのではと思います。
── 長期保存が可能な「えいようかん」が災害時の備蓄用に注目されています。
大西 5年間の消費期限をクリアする必要がありましたが、長期保存が可能な袋を使用して、5年6カ月の賞味期限の商品として出すことができました。化粧箱には点字で中身がようかんであると表記し、災害用伝言ダイヤルの利用方法も載せています。「もしも」の時に貢献できればと思います。
── 井村屋が運営してきたレストラン「アンナミラーズ」の最後の高輪店が22年8月に閉店した時にはニュースになりました。
大西 閉店の時には惜しむ方が多く来店し、たくさんの支持を頂いていたことを改めて認識しました。これにどう応えていくかが今後のポイントです。現在も期間限定で販売する「ポップアップショップ」として出店をしています。それ以外では常設店舗というのも選択肢の一つで、多面的に試行していければと思います。
── 本社のある三重県では日本酒造りにも取り組んでいますね。
大西 21年7月から「福和蔵(ふくわぐら)」ブランドで販売しています。元々、同県多気町の商業リゾート施設に酒蔵を設けるという企画がありました。県内の酒造メーカーから免許を取得し、頂いた話に応えたのです。当社グループは酒を含めた発酵の技術を持っておらず、技術の広がりという狙いもありました。酒かすを使った酒まんじゅうを商品化しています。
「ハラル認証」に対応
── 海外事業ですが、米国で餅を使った冷菓が人気と聞きます。
大西 アイスクリームを餅でくるんだ商品です。「MOCHI」が認知され、米国のスーパーではほぼ導入されつつあります。当社が市場参入した時に比べてメーカーは増えており、市民権を得たということだと思います。米国ではあずきバーやカステラを輸出して販売しており、伸びしろがあると考えています。
── マレーシアではあずきバーを現地生産しているそうですね。
大西 現地企業に製造委託をして「AZUKI BAR」と餅アイスを販売しています。イスラム圏のため、(現地の戒律に従った)「ハラル認証」にも対応しています。
マレーシアは「ASEANのゲートウエー(入り口)」と考えています。インドネシアを手始めに、イスラム圏を中心に商品を提供するベースになればいいなと期待しています。
(構成=安藤大介・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 30代前半で営業職から経営企画部門に移り、広報や予算編成などを担当しました。予算編成の時期は特に忙しく、小豆が高騰した時など、数字や計画をどう作り上げるかということに追われました。
Q 「好きな本」は
A 三枝匡さんの『ザ・会社改造』です。会社のポートフォリオ分析、原価についてのシビアさ、顧客へのアプローチなど参考になりました。
Q 休日の過ごし方
A コロナ禍までは美術館や城巡りをしていました。印象派の絵画や日本画が好きです。城は藩によって文化が違うところが楽しいですね。
事業内容:事業会社(井村屋、井村屋フーズなど)の経営管理やコンサルティング、不動産の賃貸・管理
本社所在地:津市
創業:1896年
資本金:25億円
従業員数:944人(2024年3月末現在、連結)
業績(24年3月期、連結)
売上高:482億円
営業利益:25億円
週刊エコノミスト2024年10月8日号掲載
編集長インタビュー 大西安樹 井村屋グループ社長