経済・企業 2024年の経営者

広域店舗網を生かした成長を追求――中澤宏・ほくほくフィナンシャルグループ社長

Photo 武市公孝:東京都中央区の北陸銀行東京支店で
Photo 武市公孝:東京都中央区の北陸銀行東京支店で

ほくほくフィナンシャルグループ社長 中澤宏

なかざわ・ひろし
 1963年生まれ、富山市出身。富山県立富山南高校卒業、明治大学商学部卒業後、86年北陸銀行入行。取締役常務執行役員富山地区事業部本部長などを経て2022年6月からほくほくフィナンシャルグループ社長、北陸銀行頭取。61歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── ほくほくフィナンシャルグループ(FG)として2004年9月1日に北陸銀行(富山市)と北海道銀行(札幌市)が経営統合し、今年9月で20周年を迎えます。

中澤 経営統合した当時はバブル崩壊後の経済混乱期にあり、経営を安定させて経営基盤を強化することが目的でした。距離的に近い地銀どうしの経営統合が進んだ中で、ほくほくFGは「唯一の隔地統合」とよくいわれますが、それほど意外感があったわけではありません。

 北陸はもともと江戸時代から日本海を行き来する北前船を通じて北海道との関係が深く、北海道開拓のために北陸から移住する人も非常に多かったのです。そのため、北陸銀行の前身銀行が北海道に初めて小樽支店(小樽市)を開設したのも明治32(1899)年と、かなり早くから進出していたという経緯もあります。

── 経営の一体感醸成にはどう取り組んできたのですか。

中澤 両行の職員が一緒になった研修のほか支店長会議や連携会議などでの交流をことあるごとにやってきましたが、二つのブランドでそれぞれの地域での優位性を生かしつつ、経営戦略や成長性の面から本部機能やガバナンスの強化は、FGとしてより一本化していく方向にかじを切っています。

 その取り組みの一つとして、今年7月からFG100%出資の子会社として設立した「ほくほくコンサルティング」が営業を開始しました。取引先企業のM&A(合併・買収)や事業承継などのコンサルティングに両行の専門部隊が一緒になって取り組み、これまでよりも掘り下げた提案をしたいと考えています。

── 今年1月1日に能登半島地震が発生しました。被災地域の現状をどう捉えていますか。

中澤 なかなか復興が進まないという危機感を覚えています。地理的な制約や人手不足などが重なり、廃業や人口流出も起きている状態です。厳しい現実を突きつけられていますが、一刻も早く復興を果たせるよう、国や自治体、そして我々を含めた経済界や民間企業が連携しながら、着実に取り組んでいくしかありません。

── 被害が大きかった石川県輪島市や珠洲市にも北陸銀行の店舗があります。発災直後は大変だったのでは?

中澤 私も発災後、支援物資を運ぶ車に同乗させてもらって現地へ入りましたが、建物の9割以上は倒壊したり亀裂が入ったりと何らかの問題があり、筆舌に尽くしがたい光景でした。輪島、珠洲の店舗は1月の第2週には電源を確保しながら営業を再開し、現金の預け入れや払い出し、お客さまの相談などに応じてきました。断水なども続く中でしたが、職員は金融というインフラを維持する使命感でよくやってくれたと思います。

北海道、北陸で大型事業

── 北海道では先端半導体の量産を目指すラピダスの工場建設が千歳市で進むほか、北陸新幹線が今年3月、金沢─敦賀間で延伸開業するなど、明るい話題もありますね。

中澤 ラピダスの本格生産はまだ少し先ですが、すでに工場建設の人手の宿泊先確保といった需要が出ており、今後も周辺の資金需要はどんどん出てくる見込みです。ラピダス進出による北海道への経済波及効果は36年度までの14年間で最大18.8兆円と試算されていて、私どもにも1兆円程度は資金のご相談があると見込んでいます。

 また、北陸新幹線の敦賀延伸による福井、石川両県への経済波及効果も588億円と試算されており、福井県への観光客は関東からだけでなく大阪、名古屋からも相当増えていると聞いています。北陸と北海道という当社グループの地盤の地域経済が今後、大いに活性化するものと期待しています。

── 日銀が今年7月、政策金利を0.25%程度に引き上げる追加の利上げを決めました。地域経済への影響は?

中澤 北陸や北海道に限らず、日本全体の景況感はそれほど悪くはないと感じています。地方でもそれなりの収益力を持った企業がたくさんあり、賃上げの動きも広がっています。日銀が今のペースでゆっくりと利上げを進めていくのであれば、利上げの影響を吸収できる素地は十分にあると思っています。

── 24年3月期は連結純利益230億円となり、3カ年の中期経営計画で掲げた最終年度(25年3月期)の目標250億円が視野に入っています。ほくほくFGの今後をどう展望していますか。

中澤 現中計の中で発表した10年後の長期目標では、連結純利益を350億円としていましたが、次期中計の策定の中で今の時代に即して見直していきたいと思っています。北陸、北海道だけでなく地銀には珍しい13都道府県にまたがる広域店舗網を生かした成長モデルを構築していきたいですね。

(構成=桐山友一・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 審査部が長く、経営統合する前までの地域の経済環境は本当に大変でした。大型の再生案件に携わり、夜寝る間もなく忙しかったですね。地域を守ることを第一に、悩みながらがむしゃらに働きました。

Q 「好きな本」は

A 『論語』はよく読み返します。日々の忙しさで流されてしまいがちですが、自分のポリシーや考え方を諭されます。

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングで息抜きをしています。テレビでスポーツ観戦したりもします。


事業内容:銀行持ち株会社

本社所在地:富山市

設立:2003年9月

資本金:708億9500万円

従業員数:4580人(24年3月末、連結)

業績(24年3月期、連結)

 経常収益:1901億円

 経常利益:232億円


週刊エコノミスト2024年9月10日号掲載

編集長インタビュー 中澤宏 ほくほくフィナンシャルグループ社長

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