週刊エコノミスト Online 2024年の経営者

鮮度の高さで支持される宅配すし――江見朗・ライドオンエクスプレスホールディングス社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

ライドオンエクスプレスホールディングス社長 江見朗

えみ・あきら
 1960年大阪府出身。79年県立岐阜高校を卒業後に渡米し、すし職人として働く。92年帰国後、サンドイッチ店を開業。98年宅配すし店を出店し、2001年前身企業を設立。17年現社名に変更。63歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 1998年に宅配すし店を始めたきっかけは何ですか。

江見 高校を卒業後、米国のすし店で7年半、働きました。現地でサンドイッチ店「サブウェイ」がはやっていたのを見て、帰国後の92年、岐阜市にサンドイッチ店を開業しました。ところが一方通行の裏路地の半地下とあって売れない。そこで台車に載せて売り歩き、宅配に力を入れたらすごく売れました。ただ、サンドイッチは昼に売れても夜は売れません。「夜に売れるものといえば、米国で職人として握ったすしだ」と考えて98年に宅配すし店を始めました。

── 市場シェアがトップだそうですね。

江見 はい。開店当時、宅配すし市場は今よりずっと大きく、チェーン運営会社が何十社もありました。それから約25年たった今、全国展開の宅配すしチェーン、料理宅配チェーンの上場会社は日本で当社しかありません。

── 宅配すしチェーンが減った理由は何ですか。

江見 一つ目は、毎回決まった目的地に配送することが多い運送業と違い、料理宅配は注文ごとに配送先が異なります。単価も比較的低く、料理の鮮度を管理しながら運ぶ難しさがあることです。

 二つ目は、当社の規模でも薄利ですから、規模がもっと小さい会社は仕入れ単価が高くなり、理論上ビジネスとして成立しません。当社は加盟店を創業後1年4カ月で200店も一気呵成(かせい)で出店し、コストダウンして利益が出る形にしました。

── 他社と差別化する強みは何ですか。

江見 一部の回転すし店のようにあらかじめスライスしておいたネタを解凍して機械でシャリに載せるのではなく、マグロ、サーモン、ハマチなどを現場で切る、人が握るといった工程を大事にしています。そうしないと鮮度が悪くなるし、運んでいる間に振動でバラバラになってしまいます。第一、人が握らないとおいしくなりません。

 従業員のモチベーションを高めることにも力を入れています。一般の飲食店の従業員は同じ屋根の下で仕事しますが、当社の配送員は店を出発したらサボるかもしれません。生命線の一つであるチラシ配りにも上司の目が届きにくい。従業員のモチベーションを上げる必要があります。そのためには企業理念を紙に書いて壁に貼るだけではだめで、上司が部下を感情に任せて怒らないことが大切だと考えています。そのことを『怒らない経営』(イースト・プレス)という本にまとめ、2012年に出版しました。皆が楽しくのびのびと働けて、誰でもできる当たり前のことを誰にもできないぐらい徹底的に掘り下げることが大事だと思っています。

── 24年3月期は減益でした。

江見 コロナ禍1年目の21年3月期に営業利益が前期比75%増の24億円となり、ピークを付けました。その後、燃料代と原価が上がった影響で利益構造が崩れる中で2割値上げしました。昨年5月に開示した中期経営計画では、24年3月期の営業利益の目標をしゃがむような形で6億円としましたが、結果的には大幅に上回る10億円を達成できました。

── 「銀のさら」の店舗数は387店だそうですね。

江見 主力ブランドの「銀のさら」はすしの宅配だけでなく、一部の店でテークアウト(持ち帰り)を導入しました。テークアウトの潜在需要を掘り起こしていきます。現在、この需要に応える事業者には「小僧寿し」「京樽」のほか、スーパーマーケットがあります。スーパーの場合、すしを冷蔵保存することが多いのですが、シャリのでんぷん質は4度以下で冷蔵すると常温に戻してもやわらかくなりません。その点、常温で握り、常温で届ける当社とは味に差があると思います。

── 「すし上等!」はどんなブランドですか。

江見 387店のうち約100店で営業するセカンドブランドです。ネタの重さは13グラムで、回転すしの8~10グラムより大きいのに価格はほぼ同じ、「銀のさら」の17~21グラムより小さい分、価格を下げています。ただ、食材費の高騰などから「銀のさら」の価格が上がってきたため、「すし上等!」の名称を「銀のさら 和(なごみ)」に変えて主力ブランド化し、全店で展開する目標を立てています。

 両ブランドとも、同じ従業員が同じ場所でほぼ同じネタを握っています。「和」の展開店を増やしても設備投資は要らず、違う購買層を狙える点が強みです。また、釜飯をメインとするブランド「釜寅」を約230店展開しています。

── 海外戦略はどうですか。

江見 タイの首都バンコクに日本航空グループが始めた日本生鮮卸売市場に22年、練習がてら加盟店を1店出しました。次は和食レストランをメインとし、デリバリーを付けた店をASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に展開する予定です。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 起業してから10年間、億単位の借金があり、金利も高く、寝ても覚めても尻に火が付いた感覚でした。

Q 「好きな本」は

A 起業した頃は松下幸之助、井深大、稲盛和夫、本田宗一郎といった名経営者の著書を一通り読みました。

Q 休日の過ごし方

A 週3日ほど自宅がある岐阜に帰り、犬と遊んで家族と外食して風呂掃除という極めて普通な休日ですね。それがリフレッシュになっています。


事業内容:料理宅配チェーンの経営管理業務

本社所在地:東京都港区

創業:2001年7月

資本金:10億円

従業員数:3440人(24年3月31日、連結)

業績(24年3月期、連結)

 売上高:239億円

 営業利益:10億円


週刊エコノミスト2024年8月13・20日合併号掲載

編集長インタビュー 江見朗 ライドオンエクスプレスホールディングス社長

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