週刊エコノミスト Online 2024年の経営者

売上高1兆円を通過点に100年企業へ――大塚裕司・大塚商会社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

大塚商会社長 大塚裕司

おおつか・ゆうじ
 1954年東京都出身。立教高校卒業、76年立教大学経済学部卒業後、横浜銀行入行。80年リコー入社。81年大塚商会入社。90年バーズ情報科学研究所入社。92年大塚商会復帰。取締役、副社長などを経て、2001年から現職。70歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 足元の事業の状況は。

大塚 まずまず順調です。AI(人工知能)の活用や、企業のオフィスで必要な各種システム機器の導入を支援する「オフィスまるごと」で、いろいろな商材を売っていくという観点では、少しずつ動いて増えてきています。例えば、過去にはお客さまにコピー機を入れたら、リース期間終了の交換のタイミングが3~4年後という感覚でしたが、現在は入れ替わりが早くなり、いろいろな商材が少しずつ売れるようになってきています。

── AIの活用については。

大塚 もともとは1998年に「大戦略」という基幹系の取り組みをやったときから、クリーンデータ(有効なデータ)を使いながら、そこに営業支援系のためのCRM(顧客関係管理)とSFA(営業支援システム)を組み合わせたものを加えるコンセプトを進めてきました。それに基づいて、営業が受注を獲得する「打率」が上がってきました。これが、人を増やさずに生産性を上げてきた要素の一つです。この仕組みをお客さまにもソリューションとして提供しています。

── 具体的には。

大塚 例えば、営業で2時間以上予定に空きがある人には、前々日のデータをチェックして、行った方がよい営業先を提案します。行き先がない人にも行き先を見つけてあげる。また、営業に持たせているスマートフォンには、AIが秘書のようにサポートする「AI秘書」の機能が入っています。社内のデータベースと連動して、顧客情報を調べたり、訪問先を提案してくれたり、見積もり作成を依頼できたりする。これを営業支援ツールとして活用しています。現在、当社のシステム全体で7種類のAIが動いていて、それをパイプライン(顧客へのアプローチから受注までの流れ)にしています。一部は特許を取っています。

── 大戦略のきっかけは。

大塚 私は90年に一度、大塚商会を退社して、92年に戻ってきました。その頃に借入金が868億円に膨らんで、年商の約半分を借りている状態でした。いろいろな課題が出てきて、それまでの成功体験が当てはまらなくなっているのに、社内に全く危機感がなかった。それで経費削減から始めて、まず子会社の立て直しを進めました。過去の大塚の常識は世の中の非常識になっていたので、普通のことをやっていくと結果もすぐに出ました。会社に戻ってきたのも天命で、社長になるために戻ってきたので、自分で責任を持つためにも、大戦略を作りました。そのビジョンに基づいて今の仕組みができています。

コロナ禍を経て変化

── 新型コロナウイルス禍の影響とその後の回復は。

大塚 コロナ禍の初期に都市封鎖のような状態になった時は苦労しました。お客さまのオフィスに人が出社しなくなったので、これまでは黙っていても上がっていた、コピー用紙が出ず、コピー機のカウンターも動かなかった。ストック系のビジネスや訪問販売系のビジネスは影響を受けました。

 しかしその苦しい時期でも増収増益を達成しました。当社の場合は対応できる環境を以前から整えていたからです。特にコールセンターは在宅可能なシステムを入れていたため、コールセンターが機能として全く縮小せずに通常通り運用できました。また、お客さまの在宅環境の整備については、パソコンなどの需要がコロナ禍の初期には出て、売り上げに貢献しました。しかしテレワークで新規のビジネスを獲得することは難しく、既存のお客さまに対して少しずついろいろな提案をしながら、しのいでいった感じです。

 一方でコロナ禍では、当社内で社員との接点が薄くなるといろいろな課題が出てくることを感じました。社員が引き抜きにあったことから、待遇面の見直しを進めています。具体的には労働分配率を上げることと、昭和的なマネジメントを廃しています。少しずつ会社が変わりつつあるところです。

── 2024年12月期は売上高1兆円に到達する見込みです。

大塚 これはあくまで通過点です。今、当社の年間の取引は約29万社ですが、約3分の2のお客さまはオフィスサプライ通販の「たのめーる」だけとか、パソコンだけとか、一つの商材だけの取引になっています。当社は全商材を扱っているのに、お客さまに提供するのがたのめーるだけというのは、他の商材は他社が入っていることになります。だから、ビジネスを広げる余地はまだまだあります。

 お客さまが年間で使っているIT機器からオフィスの備品までを考えると、当社は10兆円の売り上げが上がってもおかしくはない。今までできていなかったビジネスを広げることは結果的にお客さまのためにもなると思う。そのための提案を考えていくことが、企業が永遠に残って100年企業となるための近道だと思います。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 30歳過ぎでいきなり営業部長になりましたが、業績が悪かった部署を任されて苦労しました。将来は社長になると見られていたので、上からも下からもいろいろなことを言われていました。

Q 好きな本は

A 悩んで精神的に追い詰められた時に自己啓発系や心理学系の本をよく読みました。

Q 休日の過ごし方は

A サンバのチームに所属して、いろいろなイベントでパレードに出ています。チームでは装飾品作製を任されています。大人の文化祭みたいで楽しんでいます。


事業内容:コンピューター、複合機、通信機器、ソフトウエアの販売、受託ソフトの開発、サプライ供給、保守など

本社所在地:東京都千代田区

創業:1961年7月

資本金:103億7485万円

従業員数:9421人(2023年12月現在、連結)

業績(23年12月期、連結)

 売上高:9773億円

 営業利益:629億円


週刊エコノミスト2024年7月30日号掲載

編集長インタビュー 大塚裕司 大塚商会社長

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