日中のキャッシュレス決済サービス50超に対応――李剛・ネットスターズ社長CEO
ネットスターズ社長CEO 李剛
り・つよし
1974年中国・大連生まれ。吉林大学物理学科卒業後、来日。CSK(現SCSK)、新日鉄ソリューションズ(現日鉄ソリューションズ)でシステム設計・構築などを担当。2005年に日本国籍取得。09年にネットスターズを創業し社長。50歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── ネットスターズとはどんな会社でしょうか。
李 フィンテック企業です。顧客である店舗向けにQRコード決済などのキャッシュレス決済サービスの一括導入から運用までの事業を手掛けています。決済システムを導入した顧客企業には、決済に関連するDX(デジタル変革)ソリューションも提供しています。
── 百貨店やスーパーなどの小売店、飲食店などに決済サービスを提供していると。
李 いまは、街中でいろんな決済ブランドのロゴがあるじゃないですか。クレジットカード、電子マネーのほかに、スマートフォン(スマホ)で使うQR決済の数が非常に多い。これらのブランドと一つ一つ契約すると店舗側にはかなりの手間になります。当社のマルチキャッシュレス決済ソリューション「StarPay」は、現在約40社のQR決済ブランドのほか、クレジットカード、電子マネーを加えると50ブランド以上の決済サービスをすべて一括で導入可能です。「PayPay(ペイペイ)」など日本国内のQR決済だけでなく、中国IT大手、騰訊(テンセント)が運営する「微信支付」(ウィーチャットペイ)やアリババ集団による「支付宝(アリペイ)」など中国のQRコード決済にも対応しています。当社では、これらのサービスを「ゲートウェイ」と呼んでいます。当社は店舗と各決済ブランドの真ん中に立っている格好です。例えばスーパーのような大量の決済がある店舗では、当社のゲートウェイに接続するだけで、すべての決済ブランドとつなぐことができるので、資金回収の手間が大幅に減ります。
── 店舗の契約者数はどれくらいになるのでしょうか。
李 いまは全国約1万5000社、約45万超の拠点でサービスを提供しています。昨年度は1.3兆円の取引が当社のゲートウェイを経由して行われました。一部海外の金融機関にもシステムを提供しています。
── 決済のほかにDXソリューションにも注力しています。
李 決済を基盤にプラスアルファのサービスを提供しています。店舗の外からスマホで事前に注文する「モバイルオーダー」や、店舗内で電子端末を使った「セルフオーダー」のシステムなどを提供するものです。大手牛丼チェーンの注文DX化にも貢献しています。
流通大手イオンが展開する映画館チェーン「イオンシネマ」の飲食売り場でも、モバイル決済とセルフレジ型の2種類のシステムを導入しています。飲食関連の注文から支払いまですべて無人化されます。現場では調理に集中すればよく、コスト面の効果を認めてもらっています。
中国出身の3人で創業
── 2009年に創業したきっかけは。
李 私を含め中国出身の3人のエンジニアが集まって、何か新しいサービスはできないかと考えていました。私はネットワークエンジニアです。この分野では最難関の資格となるCCIE(米ネットワーク機器大手シスコシステムズが認定する民間資格)を得ており、腕のいいエンジニアだと自負していました。人間社会においては人のネットワークが重要で、会社を作るときに一番重要なのは人材です。優秀な人材は言い換えると「スター」。ネットワークをしっかり持ちながら、「スター集団」にしようという思いからこの社名にしました。
── 23年9月に東証グロース市場に上場するまでに会社が大きくなったきっかけは。
李 最初に当たった事業は国際ショートメールサービスです。日中間のショートメールが1通100円だった10年当時に、安くする仕組みを考案して、1通10円に下げました。かなりの金額の利益を上げました。次に成長する事業はモバイル・インターネットだと考え、当時すごいスピードで成長していたテンセントとの協業を模索しました。13~15年くらいに、中国ではウィーチャットペイやアリペイをみんなが使うようになり、日本でも同様に普及すると考えました。現在の本業である決済サービスは15年開始です。
── 24年12月期は、営業利益が1億円、当期利益が1億5000万円を予想(前年度はそれぞれ3億2100万円、3億4700万円の赤字)。黒字転換を予想しています。今後どのような成長戦略を描いていますか。
李 今年度は黒字化が一番の目標になります。日本でのキャッシュレス決済比率は4割程度と、伸びる余地は大きいです。国内事業の足元を固めつつ、海外事業を伸ばします。昨年8月、経済産業省から、日本の統一コード「JPQR」を海外で推進する事業者に選定されました。今後は東南アジアや中東でのキャッシュレス化を見込んで、日本で進めてきたゲートウェイ事業やDX事業をこれらの地域で展開しようと考えています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 2015年にフィンテック事業に集中するため、ゲーム、eコマース、ビデオの事業から撤退。社員から「なぜやめるのか」と詰め寄られて、しばらくは夜も寝られないほどでした。
Q 「好きな本」は
A 『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版、ピーター・ティールほか著)。米国でイノベーションを起こした人たちの本が好きです。
Q 休日の過ごし方
A 土曜は買い物や散歩で妻と過ごします。日曜は、スタートアップ系の若者たちと飲み会をすることが好きです。
事業内容:フィンテック事業、企業向けデジタルソリューション事業など
本社所在地:東京都中央区
設立:2009年2月
資本金:44億5127万円(24年3月31日)
従業員数:228人(24年4月1日時点、連結)
業績(23年12月期、連結)
売上高:37億2000万円
営業赤字:3億2100万円
週刊エコノミスト2024年7月2日号掲載
編集長インタビュー 李剛 ネットスターズ社長CEO