週刊エコノミスト Online 2024年の経営者

アジアにオーラルケアを広げる――竹森征之・ライオン社長

Photo 武市公孝:東京都台東区の本社で
Photo 武市公孝:東京都台東区の本社で

ライオン社長 竹森征之

たけもり・まさゆき
 1970年千葉県出身。同県立磯辺高校卒業。1993年中央大学商学部卒業、ライオン入社。2021年執行役員。22年上席執行役員。23年社長執行役員・最高執行責任者。24年3月同・最高経営責任者。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 昨年4月に新本社に移転しましたね。

竹森 従業員同士のコミュニケーションを、より密にしたいと考えていました。新本社はフリースペースが多く、縦の関係のみならず、横の関係部門とのコミュニケーションが存分に取れます。レイアウトには工夫を凝らし、子連れで出社できる場所もあります。

── 2023年12月期は増収減益でした。

竹森 昨年は正直、苦戦をしました。原材料価格の高騰の影響を受けたほか、柔軟剤の新製品の売り上げが計画を下回りました。一方で、当社は海外事業の構成比を高めようとしていますが、こちらは順調に成長をしています。

 国内は当初の想定から少しマイナスとなっていることから、収益のメリハリをつけようと、収益基盤の再構築をグループ全体で進めています。日本は構造的な人口減少に直面しており、これは避けて通れません。より付加価値の高いものを顧客に提供し、適正なマージンを取るというふうにかじを切り直しました。

── 「重点分野の強化」と「非注力分野の整理」ですね。

竹森 重点分野においては新習慣の提案による高付加価値化を目指しています。例えばオーラルケア分野では、これまでは虫歯予防、歯周病予防など、具体的な症状に基づいた製品がほとんどでした。ですが、それでは納得せず、自分に合うものを探している人が25%程度いることが分かりました。そうした方々への提案として生まれたのが「OCH-TUNE(オクチューン)」という新ブランドの歯磨き、歯ブラシ、マウスウオッシュです。速磨きの人向けの「FAST」、ゆっくりリラックスして磨きたい人向けの「SLOW」と、スタイル別に設計しています。

 非重点分野の整理では、機能性食品の一部や湿布剤、ドリンク剤の他社への譲渡を決めました。そこで得たキャッシュや担当していた人材を、オーラルケア分野や海外事業などの注力分野に割り当て、全体の生産性を高めようとしています。

適正なマージンを

── 値上げやアイテム数の削減も進めていますね。

竹森 元々は原材料高に対応する値上げでした。しかし、その理由は変わりつつあります。我々の業界では適正なマージンが取れていません。洗剤の値段にしても、日本は諸外国と比べて、非常に安いのです。日本ではデフレの期間が長く、低価格が当たり前の状況でした。しかし、適正な物価上昇の状況にもっていき、賃金も上げ、日本の経済力を高めていかないと、世界経済から日本が取り残されるという危機感を持っています。

 アイテム数については3割削減を目指しています。ライオンに限った話ではないのですが、日本では相対的に商品数が多すぎ、分散してしまっています。本来は1品当たりの売り上げと利益を多くしなくてはいけないのに、強い商品が育っておらず、その構造を変えないといけません。これを進めることで生産性が向上し、管理コストが減っていきます。

── 海外事業を伸ばしていく方針ですね。特に中国事業の成長加速を打ち出しています。

竹森 中国のオーラルケアのマーケットの規模はざっと日本の5倍の大きさです。一方で、トップメーカーでもシェアは限られ、「群雄割拠」という状況です。ライオンは中国市場において後発であり、耕す畑は大きいと感じています。「歯磨きのライオン」というイメージが市場開拓において武器になると期待しています。BtoB(事業者向け)の洗剤についても現地企業と組み、ホテル向けなどといった設定をしながら成長させたいと考えています。

── 東南アジアにも力を入れていますね。

竹森 従来は洗剤中心のビジネスでしたが、原材料価格の高騰の影響を受けやすい状況でした。重要なのは、オーラルケアやハンドソープ、ボディーソープなどの「パーソナルケア」の構成比を高めることです。経済成長が進めば需要が伸びると考えています。

── 来年度から中期経営計画の新ステージに入ります。どの分野に注力していきますか?

竹森 伸ばしていく分野はオーラルケアであり、その場所はアジアを中心とする海外です。ライオングループは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」がパーパス(存在意義)です。オーラルケアにおいては、歯を磨くのみならず、口腔(こうくう)状態や機能を良くする習慣を加速させていきたい。虫歯や歯周病、口臭といった歯の衛生だけではなく、よくかめる、笑っても笑顔がすてきというような口腔機能そのものに対してビジネスを広げていかないといけません。「生涯の口腔機能に対する習慣をライオンに任せてもらう」というサービス面も含めたビジネスを展開していきます。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 住居用洗剤などの部門のマネジャーになったことです。事業からの撤退を言われていた経緯もあり、初めは誰にも相手にされず、苦労しました。ヒット商品が生まれると味方も増え、状況が変わりました。

Q 「好きな本」は

A 『ザ・会社改造』というビジネス書です。著者の実例が書いてあります。以前も読んだのですが、社長になって読むと問題意識や視点が変わってきているのに気付きます。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフです。同じコースでも、風向きや体調などによって戦略が変わってきます。考えながらやるのが楽しいです。


事業内容:歯磨き、歯ブラシ、せっけん、洗剤、ヘアケア・スキンケア製品、クッキング用品、薬品の製造販売など

本社所在地:東京都台東区

設立:1918年9月

資本金:344億円

従業員数:7550人(2023年12月末、連結)

業績(23年12月期、連結)

 売上高:4027億円

 営業利益:205億円


週刊エコノミスト2024年8月6日号掲載

編集長インタビュー 竹森征之 ライオン社長

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