非資源伸ばし最終益2倍へ!――植村幸祐・双日社長
双日社長 植村幸祐
うえむら・こうすけ
1968年、兵庫県出身。私立淳心学院高校卒、東京大学農学部卒業。93年日商岩井(現双日)入社。双日米国兼米州エネルギー・金属部門長などを経て2015年6月から3年間米ヒューストンに赴任。化学副本部長などを経て、23年4月に経営企画担当本部長。経営企画、新エネルギー・脱炭素領域担当本部長の後に、4月から社長兼COO(最高執行責任者)。56歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 旧日商岩井と旧ニチメンの合併から2024年で20周年という、節目の年での社長就任です。
植村 入社して30年。私の周りも含め、社内はすごく良い方向に変わりました。合併当初は何をするにもさまざまな制約がありました。やれることを地道に積み重ねたのが最初の10年。徐々に制約が減り、「これだ!」と思うことをできるようになりました。
── 長期目標では、時価総額や最終(当期)利益を現状の約2倍にすることを掲げています。最終(当期)利益2000億円に向け、どういうことが必要ですか。
植村 大胆な目標で、新たな一歩が非常に重要と考えています。既存事業を磨き直し、新分野は決して「飛び地」としない。この既存事業を中心としたものを当社では「カタマリ」と呼んでいますが、これをさらに大きくしたい。急激に変化する外部環境下で必要なのは、デジタル化と新エネルギー分野で、両者を組み合わせていきます。2000億円の達成時期は30年前後になるだろうと考えています。
── 4月にスタートした、27年3月期を最終年度とする3カ年の新中期経営計画(中計)では、平均で最終利益1200億円を目標としています。市況の変動で業績がぶれやすい資源分野と、比較的安定的な非資源分野の将来像は?
植村 現状では最終利益約1000億円における資源分野は3割程度です。市況に頼らず実力として1000億円を超えるよう非資源分野を伸ばしたい。今の700億~800億円から、100億、200億と増やしていく構想です。リテールコンシューマーサービスや、今期は若干苦戦中ですが自動車も確実に伸ばします。他にも省エネやヘルスケアなどカタマリになる部分をさらに強化します。
ベトナムからインドへ
── 中計には「『双日らしい成長ストーリー』の実現」を掲げています。具体的に教えてください。
植村 従来の延長線上ではなく、社員に、今やっていることを踏まえながら新たな部分でユニークさを出してほしい。これをイメージしてもらいたく考えた言葉です。
特に三つの方法を中計には書き込んでいます。まずは成長市場を面展開するものとしてベトナムの事業です。ベトナムではさまざまな事業を長年展開し、一通りそろっています。二つ目はビジネスモデルの変革・深化です。例えばエネルギー分野であれば、トレーディングから始まったものが、いまや再生エネルギー事業を行うなど業態変化しています。そして三つ目は、バリューチェーン上の事業領域の拡大です。二つ目と似ていますが、物の売買から、サービスの提供に変化、拡大させます。
── ベトナムからインドへ、とも掲げています。
植村 具体的なところはこれからですが、ベトナムでは食料を中心に畜産も始めるなど、物流や卸売業などサプライチェーンの上流から下流まで展開できています。インドのマーケットでも、関連させたり、あるいは間を埋めながら、広げていけると思っています。経済成長力もあり非常に魅力的です。
── 投資計画では27年3月期の3年間で、全体で6000億円とし、既存事業を核とする分野と、新規や事業変革の分野に半分ずつを投じる方針を示しています。
植村 この20年でキャッシュフローは確実に稼げるようになりました。前中計(21~23年度)では策定時の投資計画は1500億円でしたが、結果としては3年間で3300億円を投資しました。当社のキャッシュフローの目標を考えたときに、投資に回す金額としては6000億円の規模が適当と判断しました。3年たつと世の中はがらりと変わり、当社の事業ターゲットも変化します。そこでまずは既存分野を中心に投資を始め、後半戦に向かって、新規のトランスフォーメーションにかかる投資に関わってくるという想定です。
── どのような分野に注力しようと考えていますか。
植村 当社は七つの営業本部がありますので、今やっている各事業での注力はもちろんです。それにDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を掛け合わせたい。新たなビジネスモデルができれば理想的ですが、必ずしもそうはいきません。DXやGXにウエートを置いた事業に加え、新エネルギーなど新分野を活用したビジネスを考えています。
── 人的資本の拡充として、女性の課長職比率の拡充も目標にしています。現状の課題と展望は。
植村 課長職比率は一つの目安です。この10年間で女性の採用を強化してきましたが、入社15年前後をめどに課長職を考えたときに、人材の厚みも確保しなければなりません。ライフイベントはどうしても女性と男性で異なってしまいます。ライフイベントに左右されない期間に、男性社員も女性社員も、遜色なく経験を積めるよう柔軟な人事制度を目指しています。
(構成=荒木涼子・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 猛烈社員でした(笑)。たくさん働くことに生きがいを感じていました。前半はスキルがどこまでいっても足りないと感じ、後半は責任あるものも任せてもらいインテンシブ(集中的)にやらないと回らず、猛烈に仕事をしました。
Q 「好きな本」は
A 数学の本です。最近はサイモン・シンの『数学者たちの楽園』や、オリヴァー・ジョンソンの『数学思考のエッセンス』を読みました。さまざまな予測に数学はいかせます。
Q 休日の過ごし方
A 半分はゴルフですが家族との時間も欠かせません。
事業内容:総合商社
本社所在地:東京都千代田区
設立:2003年4月
資本金:1603億3900万円(24年3月末)
従業員数:2万3069人(24年6月末現在、連結)
業績(24年3月期〈IFRS〉、連結)
収益:2兆4146億円
最終利益:1007億円
週刊エコノミスト2024年9月24日・10月1日合併号掲載
編集長インタビュー 植村幸祐 双日社長