全8事業部を融合して“防災”を事業化――日景一郎・アキレス社長
アキレス社長 日景一郎
ひかげ・いちろう
1961年東京都出身。東京都立国分寺高校卒業、東京農工大学工学部卒業、85年4月アキレス入社。2010年執行役員断熱資材事業部長に就任、12年取締役、18年常務取締役、20年専務取締役を経て、22年6月から現職。63歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 現在の事業の構成は。
日景 当社はシューズ部門、プラスチック部門、産業資材部門の三つの部門の下に計8事業部があります。会社の規模の割に事業数が多く、リソースが分散される弱みが懸念されますが、私は逆に強みだと思っています。八つの事業をいかに融合して価値を作っていくかが重要だと思っています。
一般消費者は、当社を「シューズのアキレス」「瞬足のアキレス」という認識をされている人が多いと思いますが、シューズ部門の売り上げは全体の15%を切っています。残りの85%以上は、それ以外の7事業が占めています。残りを大きく分けると、シート状のものを作っているプラスチック部門が全体の売り上げの約半分、発泡体を作っている産業資材部門が約3分の1となっています。
── シューズ部門以外の状況は。
日景 プラスチック部門は4事業で、自動車向けを中心とした車輌資材事業部、フィルム状の製品を扱う化成品事業部、住宅用の壁材や床材を扱う建装事業部、防災事業部があります。中でも防災事業部は3年前に作った新しい事業部です。もともとゴムボートは釣りなどのレジャー用で認知度が高かったのですが、最近は救助用の需要が高まっています。またゴムボートの技術を使ってエアーテントも作っていて、感染症対策など医療用に使われています。
残る産業資材部門は、ウレタン事業部、断熱資材事業部、工業資材事業部の三つの事業があります。ウレタン事業部は軟質のウレタンで、寝具関係でマットレスなどに使われています。断熱資材事業部は硬質のウレタンで、建築用の断熱材を扱っています。ラミネート構造の断熱材はトップクラスのシェアを獲得しています。来年の住宅の省エネ基準の適合義務化で、断熱材の需要の伸びに期待しています。
また、工業資材事業部は、導電性高分子を使った静電気対策商品を扱っています。
── 防災事業に注力しているとのことですが。
日景 防災事業は八つの事業を融合して展開する事業として捉えています。今はまだ救助用ボートとテントが主軸ですが、ウレタン事業部のマットレスを避難所用に提供しています。それ以外の分野についても他の事業部も含めて新しい商品を作っています。
防災事業は、社会的な課題を解決する事業の象徴と位置付けています。そうした事業を増やしていくことは、社員のモチベーション向上にもつながります。最近は防災事業をやりたいという入社希望者もいます。
シューズは海外生産
── 1月に発生した能登半島地震への対応は。
日景 防災事業部ではなく断熱資材事業部に入ってきた話ですが、断熱材を提供しました。輪島市の避難所になっている中学校の体育館の床が冷たくて避難者が眠れないという話でした。当社は戸建て住宅用に断熱材を手掛けているので、断熱材をトラック1台分提供しました。防災事業以外で製造・販売している製品を防災マーケットにマッチングさせた商品として開発することで、社会貢献ができますし、事業価値を高めていけると思います。
── 一方でシューズ事業はどのように成長させていきますか。
日景 シューズ事業は海外生産にシフトし、国内生産の終了を決めました。選択と集中という意味では、瞬足はジュニアスポーツシューズブランドとしてはトップなので、瞬足には力を入れていきます。20年間で累計8300万足を売り上げ、コーポレートアイデンティティーとして価値がありますし、ブランドを強化していきます。
次にソルボセインを搭載した革靴で「アキレスソルボ」という商品があり、疲れにくいため、主にシニア層の女性に好評で、今後の柱として位置づけています。そして三つ目に、自社ブランドではないですが、米国のランニングシューズの「ブルックス」があり、まだ規模は小さいですが、年々増えています。
── 八つの事業を有機的に関連させながら拡大する施策は。
日景 まだまだ課題はありますが、数年前から各事業に横串を通すことを考えていて、少しずつ進んでいます。2015年に現在の本社に移転した時、営業をワンフロアに集めて、いろいろな事業部の人が打ち合わせをできる空間を作りました。事業部間のコラボレーションによる開発は進んでいます。
── 足元の業績は24年3月期までは苦しい状況が続いていますが、25年3月期の見通しは。
日景 黒字転換のペースには乗っています。まだ満足できる数字ではないですが、今年度あるいは次年度に向けて、選択と集中を進める中で、新しい分野への注力を一つ一つ進めているところです。
(構成=村田晋一郎・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 20代半ばから30代半ばまでは九州の営業所にいました。小さいマーケットで、中間素材の販売だけでなく2次加工まで、ある意味1人ですべてを手掛ける状況で、本当に勉強になりました。
Q 「好きな本」は
A 立花隆の『宇宙からの帰還』です。宇宙から見た地球には国境がないということが心に残っています。
Q 休日の過ごし方
A 妻と出かけることが多いです。百貨店に買い物に行くついでにソルボを売っている靴売り場をのぞいたりしています。
事業内容:シューズ、プラスチック、産業資材の製造・販売
本社所在地:東京都新宿区
設立:1947年5月
資本金:146億4000万円
従業員数:1256人(2024年3月末現在、連結)
業績(24年3月期、連結)
売上高:786億円
営業損失:9億円
週刊エコノミスト2024年10月15・22日合併号掲載
編集長インタビュー 日景一郎 アキレス社長