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週刊エコノミスト Online 2024年の経営者

危機乗り越え食品など再成長――岩倉昌弘・クラシエ社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

クラシエ社長 岩倉昌弘

いわくら・まさひろ
 1961年兵庫県出身。大阪府立和泉高校卒。85年関西大学社会学部卒業後、鐘紡(現クラシエ)入社。2018年クラシエホールディングス(同)社長。事業会社3社を吸収合併したことに伴い、23年現職。63歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── ホームプロダクツ(日用品)、製薬、フーズ(食品)の3事業会社と持ち株会社を2023年10月に合併した狙いは。

岩倉 当社の前身会社、カネボウが経営破綻して3事業体制になったのは07年です。カネボウ時代、利益が出た事業会社が赤字の事業会社に補填(ほてん)して会社全体が成長できなかった教訓として、「“他人の財布”をあてにせず、事業ごとに稼いだ分を自らに投資して成長する」という目標を立てました。それから16年、ホームプロダクツが一番早く自立し、次は製薬、フーズも達成しました。新型コロナで急変した世の中にあって、情報システムなどを共通化し、一度しっかりまとまって、環境変化に対応しようということです。

── 3事業の内容と現状は。

岩倉 ホームプロダクツは売上高も利益面も3事業の中核でしたが、ここにきて原材料の高騰の影響が最も大きく、苦しんでいる状況です。そうはいうものの、シャンプー、コンディショナー、ヘアケアなどの強いブランド力を生かして安定成長を狙っています。

 製薬の主力は漢方薬です。医療用とOTC(市販薬)の双方をバランス良く展開しています。コロナ禍で漢方薬の重要性が広く知られるようになり、一番伸びています。これからも成長できると考えています。

 フーズは採算の悪い商品を縮小し人気商品をテコ入れした効果が出ています。人気商品の「ねるねるねるね」は粉と水を混ぜると色が変わって膨らんでふわふわになる菓子です。作って食べる過程が学びにつながることから、「知育菓子」として展開しています。

── 23年12月期売上高は前期比2.9%増、営業利益は同15.8%減でした。どう総括しますか。

岩倉 想定より良い結果でした。原材料が高騰する中、食品は業界全体で何度も値上げし、消費者もある程度受け入れているかと思いますが、日用品は遅れていました。さすがにもう吸収できず、23年9月に一部商品を値上げした影響で苦戦すると見ていましたが、計画値を上回りました。

海外でも人気「ねるねるねるね」

── 24年12月期決算はどう見通しますか。

岩倉 1~6月期は想定外のことがあり、想定を上回っています。基本的に毎年下がる薬価が、今年は採算割れした一部商品について上がりました。販売数量が昨年並みで単価が上がった影響が出ています。日用品の売上高も想定したほど落ちませんでした。フーズは酷暑によりかなり好調でした。

 ただ、それぞれ計画値は上回っていますが、増益とまではいかないと思います。今年前半、ドル・円レートが一時1ドル=160円を超え、当社は原料の値上がりを受けざるを得ない状況です。

── 3事業会社を合併させたことの効果はありますか。

岩倉 それぞれの事業をつなげることで新たな展開ができるようになっています。例えば、23年、「おくすりパクッとねるねる」という服薬補助食品を発売しました。子どもにとって、薬は苦かったり、錠剤や粉末がのみづらかったりします。そこでねるねるねるねに薬を混ぜ合わせて、楽しく服用できるようにしました。開発するに当たってはフーズの研究員が製薬のルートで小児科医を紹介してもらい、薬の効果を阻害しない食品の知見を得ました。また、ドラッグストアへの販売はホームプロダクツと取引がある販売代理店を紹介してもらいました。今後もそういうことができればと思います。

 ねるねるねるねは海外ですごく人気になっています。日本を旅行中に購入した観光客が母国に戻り、子どもが作るシーンを英語やフランス語で解説する動画を「ユーチューブ」にアップしてくれています。海外販売を増やすため、京都府福知山市に新工場を建設し、増産する予定にしています。

「クレイジークラシエ」

── 海外売上高比率は。

岩倉 3%ほどで、主に中国と米国です。

── ビジョンは「CRAZY KRACIE(クレイジークラシエ)」だそうですね。

岩倉 18年に社長に就任したタイミングで変えました。カネボウの破綻から3代目のビジョンです。石橋康哉前社長から社長交代を告げられた時、「ビジョンを変えろ」と言われ、若い社員やコピーライターなどからなるプロジェクトを立ち上げて議論しました。コピーライターが議論を聞いて立案した3案の一つが「クレイジー」でした。最終的に「お前が決めろ」となり、私が決めました。

 クレイジーという言葉は「狂気じみた」だけでなく、「想像を絶するような」「夢中になる」という意味もあります。社員が夢中になって出てくる商品に顧客が感動して「クレイジー」と叫んでくれたら最高だと思っています。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A ホームプロダクツのトップだった44歳の時、今の主力商品、「いち髪」を発売しましたが、鳴かず飛ばずで在庫の山。リニューアルしてようやく売れるまで気が気ではありませんでした。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』です。

Q 最近買った物は

A 昨年、疲労が回復するというパジャマの冬用を買い、効果を感じたので夏用を買いました。


事業内容:日用品、薬品、食品などの製造販売

本社所在地:東京都港区

設立:2007年7月

資本金:50億円

従業員数:1790人(23年12月31日、連結)

業績(23年12月期、連結)

 売上高:887億円

 営業利益:64億円


週刊エコノミスト2024年10月29日・11月5日合併号掲載

編集長インタビュー 岩倉昌弘 クラシエ社長

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