米で好調な大型SUVに注力――毛籠勝弘・マツダ社長兼CEO
マツダ社長兼CEO 毛籠勝弘
もろ・まさひろ
1960年生まれ。京都産業大学法学部卒業。83年3月東洋工業(現マツダ)入社。2008年11月執行役員、13年6月常務執行役員、16年4月専務執行役員を経て23年6月から現職。京都府出身。63歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 社長就任から1年あまりです。この間の手応えや見えてきた課題とは何でしょうか。
毛籠 当社は2022年11月に「2030年の経営方針」を打ち出しました。カーボンニュートラル(炭素排出実質ゼロ)や電動化をどう進めるのかが最大の課題です。当社では30年までに3段階で取り組みます。第1段階(22~24年)では、移行準備として取り組む期間、第2段階(25~27年)が電池調達やバッテリー技術開発の強化、第3段階(28~30年)ではバッテリーEV(電気自動車、BEV)の本格導入や電池生産への投資に取り組みます。
社長就任後の手応えとしては、かなり多くのことに着手して技術面での準備はできてきました。体制面では、通称「eマツダ」と呼んでいますが、電動化事業本部を昨年11月に発足をさせました。いま約300人の規模です。この部隊が27年をめどに自社製の電動車専用のプラットフォームを開発しています。
── 電動化への進捗(しんちょく)状況は。
毛籠 当社は「マルチ・ソリューション」という方針を掲げて、内燃機関を組み合わせたソリューション(ハイブリッド車など)を展開しています。BEVに関しては、30年に世界販売の比率を25~40%の幅で普及するとの想定です。電池についても、パートナー企業との関係を確立して、30年までに必要な電池の量はほぼめどを付けました。
── 各地域でみた電動化の動向はどうでしょうか。
毛籠 市場ごとで進展に差があります。欧州は電動化に熱心な市場で、マツダでは販売の約8割は電動車です。一方、米国では2割くらい。中国が本格的な電動化が最も進む市場です。BEVと(プラグインハイブリッド車などの)新エネルギー車で電動化の販売比率が5割くらいに進展しています。パートナー企業である長安汽車と一緒にモデルを開発してきて、今年の10月からマツダ・EZ-6という名前で、BEVと新エネルギー車を中国で予約開始しました。
── より大型のSUV(多目的スポーツ車)にも注力しています。
毛籠 「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」の4車種を「ラージ商品群」として展開しています。通常の2倍くらいの収益単価があり、次の10年で育成していくことに取り組んでいます。マイルド・ハイブリッド(簡易型ハイブリッド)やプラグインハイブリッドを搭載したタイプも選択が可能です。
── ラージ商品に関する成果は。
毛籠 最大市場の北米では順調です。北米の(マツダ全体の)販売台数は2年前が40万台、昨年が50万台、今年が60万台に向けて頑張っています。SUVのCX-50とCX-90が販売の成長と収益性をけん引しています。12年にCX-5を投入して、SUV市場に本格的に参入しました。SUVはそれ以前にもあったけれど成功していなかった。CX-5を出して初めてグローバルに成功をつかみ、CX-80などが派生して、米国では年を追うごとにSUVの販売台数が増えていきました。
日本の美意識を反映
── ブランド価値を重視しているようですが、マツダのブランド価値とはどんなものですか。
毛籠 一番大事なことは顧客から、マツダを「買いたい」「使っていたい」「関わっていたい」という思いを持ってもらうことです。近年では北米や欧州ではマツダのデザイン、品質、私たちが「人馬一体」と呼んでいる走行性が高く評価されています。米国の「コンシューマー・リポート」におけるブランドランキングでトップ(21年自動車ブランド別総合ランキング)の評価を得ています。
── デザインはマツダ車の強みだと思いますが、どのように維持、強化しますか。
毛籠 高く評価される理由は深く掘り下げたテーマがあることです。重視しているのが「日本の美意識」です。これを反映させるために、手間がかかる工業用粘土で繰り返し作業を重ねた上で、デザイナーと金型を製造するメンバーが共同してミクロン単位の精度で仕上げていく。こうしたプロセスは他社にはないと思います。デザインのテーマとそれを作り込む力、この二つがマツダ車のデザインを際立たせると思います。
── 足元の業績ですが、地域別の販売状況はどうみていますか。
毛籠 北米は好調です。24年1~8月では、米国ではマツダが一番伸びたブランドでした。欧州も堅調にやっています。課題は日本と中国、タイです。日本は新型モデルの投入が遅れました。中国は、新エネルギー車がないと市場の半分と勝負できないので、(今年度の)後半から反転攻勢を開始します。タイでは、中国の安いBEVが入ってきて、各自動車メーカーはともに苦戦中で、巻き返す必要があります。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか
A 「ロードスター」や「RX7」とスポーツカーの開発に携わりました。その後、マツダがフォードの傘下に入り、上司はマーク・フィールズ氏(後のフォードCEO)。マーケティングを彼から勉強しました。
Q 「好きな本」は
A 司馬遼太郎などの歴史物が好きです。欧州駐在中に塩野七生さんの『ローマ人の物語』を読み、現地の歴史がわかり面白かったです。
Q 休日の過ごし方
A 体調を気づかうようになりました。ジムに行ったりマッサージを受けたり。本当はもっとゴルフに行きたいのですがなかなか行けません。
事業内容:乗用車の製造、乗用車・トラックの販売など
本社所在地:広島県府中町
設立:1920年1月
資本金:2840億円
従業員数:4万8685人(2024年3月31日時点、連結)
業績(24年3月期、連結)
売上高:4兆8276億円
営業利益:2505億円
週刊エコノミスト2024年11月12・19日合併号掲載
編集長インタビュー 毛籠勝弘 マツダ社長兼CEO