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イーロン・マスクはなぜルネサスを批判したのか
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車載用半導体不足は来年央まで 増産投資に踏み切れない事情=大山聡
世界で半導体不足が深刻化し、自動車産業が減産を余儀なくされている。エンジン車のメーカーばかりでなく、米EV(電気自動車)大手テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は8月、車載半導体不足に関して日本のルネサスエレクトロニクスと独ボッシュを名指しで批判した。供給不足は少なくとも来年中ごろまでは続きそうだが、自動車業界は大きな構造変化の最中にあり、増産投資を決断するのも容易ではない。
図は車載用半導体市場の動向をグラフ化したもので、2020年は前年比7・5%減の366億ドル(約4兆円)と大幅に落ち込んだ。これは年前半に新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の自動車メーカーが減産に踏み切ったことが影響している。年後半には需要が急回復し、各社が増産しようとしたが、これが21年初からの車載半導体不足を引き起こした。
車載半導体は、マイコン、アナログ半導体、ディスクリート(単一目的に使われる単一機能の半導体)の比率が相対的に高いことが特徴である。これは車載半導体が「走る」「曲がる」「止まる」など機械的な動きを制御するために使われる比率が高いためで、パソコンやスマートフォンのように大量のデータを取り扱う情報処理的な用途ではメモリーおよびロジック(論理回路)の比率が高くなる傾向がある。
現在はほぼすべての半導体が供給不足に陥っているが、車載分野で特に深刻なのがマイコンとディスクリートである。車載マイコン市場は日欧メーカーの寡占状態だが、車載マイコン製造に必要な40ナノメートル(ナノは10億分の1)での微細加工プロセスで量産できるのはルネサスくらいで、他は台湾積体電路製造(TSMC)などのファウンドリー(半導体受託製造メーカー)に生産委託しているのが現状である。
ルネサス工場で火災
ところがファウンドリー業界において40ナノは慢性的な生産能力不足で、昨年前半に車載マイコンの需要が激減した際、TSMCは40ナノの生産ラインを他の用途に割り当ててしまった。年後半になってから需要が戻ってきても、再び車載マイコン用に割…
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