パラダイム転換 1ドル=120円常態化も 円高要因はもうなくなった=唐鎌大輔
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パラダイム転換 1ドル=120円常態化も 円高要因はもうなくなった=唐鎌大輔
これまでの日本では、「リスク回避ムードの高まり≒円高≒恐怖」という価値観が一つの社会規範のように定着してきた。それゆえに政権・政策担当者や輸出企業を筆頭とする民間企業においては「いかに円高のダメージコントロールを図るか」が重要な問題意識になってきた。過去10年あまりをさかのぼれば、2008年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災に伴う超円高の強烈なイメージもあり、いまだにその社会規範は根強いように思う。
だが、近年では「安全資産としての円買い」「リスクオフの円買い」の迫力が薄れており、かつてのような激しい変動を伴う円相場の騰勢をすっかり目にしなくなっている。
「円は安全」の根拠とは
こうした状況のもと、構造変化を察して、超長期の時間軸で見た円相場に関し、照会を受けることは増えている。考えるべき要因は複数考えられるが、やはり金利、需給、物価といった基礎的経済条件の整理は重要である。
特に、これまで円が強いと言われてきた背景には、日本が世界最大の対外純資産国であることを背景にした「盤石の需給」と、「上がらない物価」があった。ゆえに、需給と物価という二つの論点を丁寧に点検することが、円の展望を語ることにつながると筆者は考えている。
まず需給をみると、世界最悪の政府債務を抱えながら円は、常に「安全資産の円」と呼ばれ危機時の逃避先に選ばれてきた。大きな理由は、日本が四半世紀以上にわたって世界最大の対外純資産国の地位を維持していることだ。20年末時点で日本は、357兆円の対外純資産を保有し、30年連続で、世界最大の地位を維持した。自国保有の外貨は通貨防衛(自国通貨買い)に使える「弾薬」だ。極端に危機ムードが高まった際、まず弾薬が多い通貨にすがるのは合理的である。
変わる円の需給構造
しかし近年、対外純資産の構造は変化しつつある。00年代前半、日本の対外純資産と言えば、半分以上が証券投資だったが、今や直接投資が半分に迫っている(図1)。直接投資とは海外企業買収の結果だ。10年以降、直接投資比率は上がり続け、20年末時点では直接投資47%に対し、証券投資は28%と大きな差がある。これは近年「リスクオフの円買い」が鳴りを潜めていることに関係があるように思う。
というのも、「リスクオフの円買い」とは海外に投資…
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週刊エコノミスト
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