マーケット・金融

INTERVIEW 篠原尚之 元財務官 「円は経常黒字が崩れ出すと危ない」

INTERVIEW 篠原尚之 元財務官 「円は経常黒字が崩れ出すと危ない」

 日銀による異次元金融緩和は、最初の2年に円安を進め株価を押し上げる効果があった。それまでの慎重姿勢から積極的な緩和政策への転換にマーケットは反応した。しかし、実体経済への効果はそれほどでもなかった。円安にはなっても輸出はそれほど伸びなかった。

 出だしは、よかったと思う。異次元緩和を一種のカンフル剤として、構造改革が進められたらよかったが、それができずにここまできてしまった。これがアベノミクスの全体的なイメージだ。

 8年半が過ぎて、日銀が異次元緩和をやめられなくなったのは、自ら間違いを認めない、無謬(むびゅう)主義に陥っているからだろう。2年で2%のインフレ目標は達成できなかったけれど、その旗を降ろさない。降ろせない理由は、他の主要国が2%だから日本だけが旗を降ろせば、円高になってしまうという恐怖感。私は2%の旗を降ろしても円高にはならなかったと思う。実際にインフレ率は2%になっていない。それでも極端な円高にならない。

 金融緩和の継続には、いろいろな副作用がある。金融市場機能の低下、つまり資源配分の非効率化になる。ゾンビ企業を温存する。本来なら競争力がなく淘汰(とうた)される企業が低金利ゆえに存続してしまう。次に財政規律への影響。これは非常に大きい。国債を大量発行して金利が上がっても、日銀が抑えることが周知の事実になっている。したがって、財政規律が働かない。三つ目は、出口戦略(金融政策の正常化)の議論を封じたために、コロナ感染拡大では何も対策がとれなかったことだ。対極は米国。2008年のリーマン・ショックで、大規模な金融緩和を実施したが、その後正常化を進めた。だからコロナで再び金融緩和ができ、景気刺激策をとれた。そして、コロナ収束が見え始め、再び出口に向かっている。日本の金融政策は漂流している。

1ドル…

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