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週刊エコノミスト Online

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高校家庭科教職員対象セミナー 『家庭科における金融教育』開催

2022年度から高等学校家庭科の「家計管理」の授業において、金融商品の特徴や資産形成について指導することが決まった。これを受け、一般社団法人投資信託協会と毎日新聞社は、9月13日から10月13日まで、家庭科教職員を対象としたオンラインセミナー「家庭科における金融教育」を開催した。

投資信託協会では、本セミナーにより、高等学校の教育現場において資産形成や投資信託などへの理解促進が図られるとともに、ワークショップや対話を重視した授業など、より立体的な授業が展開されることを期待している。金融教育は自らの生活設計に直結する教育分野であり、机上の“勉強”だけにとどまらず、楽しくそして実践的な教育が行われ、若い世代が金融リテラシーをしっかりと身につけることが重要である。それでは、セミナーの講演内容をダイジェストで紹介しよう。

第1部講演『新しいお金の考え方』

講師:八木陽子氏(株式会社イー・カンパニー代表、ファイナンシャルプランナー)

老後2000万円問題を紐解く

第1部では株式会社イー・カンパニー代表でファイナンシャルプランナーの八木陽子氏が、「新しいお金の考え方」と題して講演。まず、2019年に起きた老後の平均不足額2000万円問題の発端となった報告書について解説した。その中で八木氏は、2000万円の根拠となった総務省家計調査の数値はあくまで平均値であると指摘。重要なのは、自分の将来を見据えてお金との付き合い方を考えていくことで、これからはその力が求められるようになると述べた。

さらにこの問題からは、長期・積立・分散を基本とした投資が必要な時代になってきていることを、メッセージとして読み取ることも大事ではないかと強調。それは、高校生の段階からお金を学ぶべき理由にもつながるとした。

今、高校生がお金を学ぶべき理由

高校生がお金について学ぶ理由として、八木氏は3つのポイントを提示。それは、2022年4月から成人年齢が18歳になること、次にお金を学ぶことは自分が今生きている社会を知ることになること、そして自ら資産形成をする時代に向け投資の基本を学校で学んでおくことの重要性だと説いた。

このうち、成人年齢が18歳になることについては、ものを購入する契約をした際に責任が伴うようになるとした上で、一方でクーリングオフという制度があることなどを学んでおく必要性にも言及した。さらに、将来自分たちの問題になる年金制度について紹介し、さまざまな社会の仕組みを学生時代に知っておく大切さを強調。投資の基本である長期・積立・分散についても解説し、将来の自分の生活を守る視点からも投資は必要であり、高校生の段階から学んでほしいと呼びかけた。

家計管理と資産形成のポイント

次に八木氏は、金融や投資について指導することになった高校家庭科の「家計管理」について言及。その中では、金融商品やリスク対応の必要性、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の特徴やメリット・デメリット、資産形成の視点にも触れるよう示されていると紹介した。

その上で、家計管理においては支出の管理が重要で、その中で貯蓄と投資をどう位置付けていくか考えていかなければならないと解説。収入の中から目的に合わせて貯蓄と投資を行っていくのが理想であり、この2つを合わせて資産形成と呼ぶと述べた。

投資のリスクとリターン

投資のリスクとリターンについても解説し、リスクとは金融商品の中にある「危険」ではなく、思った通りに行かない「不確実なこと」と定義。一方、リターンは投資したお金が増える可能性であり、実際の投資対象で見ていくと、リターンとリスクがやや大きめなのが株式で、その両方が少し低めなのが債券、その株式や債券を組み合わせた金融商品として投資信託があると紹介した。

また、金融商品への投資や預貯金は、自分で選ぶことができるものであると言及。投資は怖いものといった従来の日本のスタンスではなく、海外では子どもが楽しく学べるようにしている国もあり、日本人ももう少し投資を身近に感じていいのではないかと提起した。

お金や社会の仕組みを知りより良い日本へ

最後に八木氏は、投資信託を例に長期・積立・分散を基本とした投資について解説。これからの長い人生に備え、自分が働くことに加え、投資によってお金にも働いてもらうことで、将来の選択肢が広がることを知ってほしいと提言。若い世代には、自分の人生を切り開くと同時に、お金を通して社会の仕組みを知り、間違っていることにはしっかり声を上げ、よりよい日本を作っていける時代が来ることを祈っていると締めくくった。

第2部講演『金融で生きるための力を身につける』

講師:横山治輝氏(茨城県立常陸大宮高等学校 商業科教諭)

資産運用を始めた高校生

第2部では、茨城県立常陸大宮高等学校の横山治輝教諭が、「金融で生きるための力を身につける」と題して講演した。同校商業科では、2016年に「地域連携」「地域貢献」「地産地“商”」を目的に、全国で3番目となる高校生の株式会社「HIOKOホールディングス株式会社」を設立。地域の特産品を生かして6次産業化に取り組み、高校生自身が働いて得たお金で会社を運営し、2020年からは生徒が主体となって銘柄を選定し資産運用を始めたと紹介した。

同校が実際の投資を含めた金融教育に取り組んでいる理由について横山氏は、キャリア教育、起業家教育と金融教育はつながっており、生徒の将来には金融リテラシーや投資の知識が必ず必要になると解説。

その上で、金融や投資はもっと身近で誰もが取り組めるものであることを、生徒たちにきちんと教えられる環境づくりが大事だと述べた。さらに、自身が教員になる前に証券会社で働いていたことにも触れ、今回家庭科で金融商品の特徴や資産形成について教えることになったことは画期的であると期待を込めた。

外部との連携でリアルな授業を

次に同校のこれまでの取り組みとして、8年前にOBである農園主から「生徒たちに地元のおいしい食材を知ってもらい、地域の素晴らしさを教えたい」という提案を受け、ブルーベリーを栽培する「HIOKOファーム」を始めたことを紹介。この農園に取り組む中で、生徒には事業を継続し、後輩に引継ぎたいという思いが生まれ、株式会社設立につながったことを解説した。

また、会社の設立資金も生徒がイベント出店などにより自分たちで集め、定款も自分たちで作成するなど、高校生が主体だったことを強調。5つの子会社を作り、ブルーベリーの農園経営、商品の加工調理販売、観光ツアーの実施、雑貨の物販、財務管理と確定申告などを行っており、こうした6次産業化に取り組む高校生のベンチャーは日本初ではないかと述べた。

横山氏は、こうした取り組みの背景には、生徒たちの「地元に何かを残したい。地元を活性化したい」という思いと、それに応える地域の協力があると解説。地元の人たちとの連携で、生徒が「責任」や「覚悟」をリアルに学べる授業を支援してくれていると振り返り、自身も「生産者の思いとストーリーをきちんと話せる人になってもらいたい」という考えで指導していると述べた。

金融で生きる力を身につける

常陸大宮高校では、新しい金融教育を進めるにあたり、証券会社と包括連携協定を締結していることも紹介。専門家によるリアルで身近な学びは生徒にもわかりやすく、また、金融について表面的なことだけでなく陰の部分も含めて教えてもらい、将来に生きることを学べることが、生徒の選択肢を増やすことにつながると手ごたえを語った。

さらに、金融で生きる力を身につけることは、専門家だけでなく、誰もが普段の生活の中で生かせる知識や力を身につけることだと明言。同校では、自分が信用している会社を手助けするという考えで投資を教えていると話し、専門家から学びを得ながら実際に投資をする中で、生徒は自主的に金融庁のEDINETを見て勉強したり、自らの進路を考えたりするなど成長を見せていることも紹介した。

真に生徒のためになる金融教育を

このように、同校では生徒が成功も失敗もできる環境を用意しながら、貴重な経験の機会を提供し、金融教育の敷居を下げるため取り組みを続けている。横山氏は、将来、生徒たちが自分の生活が自分で守れるようになるための学びを深め、選択肢を広げて社会に送り出せる金融教育を目指し、今後も専門家と連携し取り組んできたいと決意を述べた。

八木陽子氏:上智大学外国語学部卒業。出版社で女性情報誌の編集部勤務を経て独立。その後、ファイナンシャルプランナーやキャリアカウンセラーとしての実績と消費者の視点から「お金」「経済」「キャリア」を伝える。 2017年より文部科学省検定の高校家庭科の教科書にファイナンシャルプランナーとして初めて掲載。親子で一緒にお金と仕事を考える「キッズマネーステーション」を主宰。監修に「10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方」(えほんの杜)など。

横山治輝氏:証券会社勤務を経て、2010年より茨城県立常陸大宮高等学校勤務。2016年12月に全国で3番目となる高校生株式会社「HIOKOホールディングス株式会社」を設立。同社は地域の特産品を生かし商品開発を行い、生徒が素材から生産、加工・販売までを行う日本初の“6次産業型高校生株式会社”として活動。2019年からは事業会社の一つであるHIOKOファイナンスが内部留保を活用した資産運用を始めるなど、生徒と先進的な取り組みを行う。

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