タリバン政権誕生の裏には習近平、中国が企てていた野望とは=遠藤誉
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中国の野望 タリバン政権の裏に習近平 中国色に染まるユーラシア=遠藤誉
8月15日にアフガニスタンの首都カブールを陥落させ、その後暫定政権を発足させた同国のイスラム原理主義組織タリバンの快進撃の裏には中国の習近平国家主席のシナリオがあった。きっかけは2016年の米軍によるタリバン指導者、マンスール師暗殺だ。
習近平が国家主席になった後の13年5月、李克強首相はパキスタンを訪問して大規模インフラ整備事業「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」に署名。15年4月には習近平自らがパキスタンを訪問して巨大経済圏構想「一帯一路」の強化を約束している。
この流れの中で16年1月、アフガニスタン政府とタリバンの和平に向けたロードマップの確立を目指して、習近平はパキスタン主催による4カ国(中国、パキスタン、アフガニスタン、米国)調整グループを誕生させた。タリバンは米国の手先政権であるアフガニスタン政府とは話したくないとして出席していない。
しかし16年5月にマンスール師が暗殺されると、タリバン代表は7月18日に訪中。中国に対し、「アフガニスタンは米軍やNATO(北大西洋条約機構)軍などにより占領され残虐行為を受けている。侵略軍から自由になれるように助けてほしい」と助力を求めた。
米撤退は「中露の勝利」
中国にとって、米国がアフガニスタンを占領しているのは、一帯一路構想の推進に当たり「一路」がスムーズにつながらないので邪魔な上に米中覇権争いは避けて通れない道だ。新疆ウイグル自治区のウイグル問題を抱えている中国は米国がイスラム圏に入り込みテロ活動ににらみを利かせているのはありがたいが、タリバンと手を結んでテロ活動を阻止することができれば、それ以上に有利なことはない。
そこで習近平は、「ウイグル族を東トルキスタン・イスラム運動に誘い込まないことを条件」に、タリバンと提携し始めた。アフガニスタンは「金鉱の上に眠る貧者」と称せられるほどに銅やレアメタルの宝庫だが、中国は16年11月にタリバンが管轄する銅鉱の採掘権を得ている。また16年12月を最後に、中国におけるテロ事件は消滅した。これらは、タリバンとの条件交渉が成立した証拠だ。
しかし米国を刺激しないようにするため、習近平はロシアのプーチン大統領を前面に出す戦略に出た。トランプ前大統領に米軍撤退を決意させるために、ロシアの首都モスクワを中心にアフガン問題に関する和平協議を盛んに行わせた。モスクワ和平協議は16年12月27日、17年2月15日、同4月14日と立て続けに開催されたが、途中で誕生したトランプ政権は出席していない。
中露が主導する上海協力機構が主催するアフガン和平協議も17年6月8~9日、同10月11日と、立て続けに開催してトランプ前大統領を刺激した。上海協力機構は対NATOの色彩もあり、当然米国は対象外。習近平はロシアの協力に感謝し、18年にプーチン大統領に友好勲章を授与したほどだ。
米国が管轄しているアフガン問題が中露によって主導されていることに気が付いたトランプは、警戒感を前面に出し、遂に18年7月23日、米国のアリス…
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週刊エコノミスト
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