米軍のアフガン撤退に動揺する欧州、欧州軍設立の機運も=渡邊啓貴
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欧州の動揺 米軍撤退が招く影響力低下 強まる「欧州軍」設立の機運=渡邊啓貴
アフガニスタンにおけるタリバンの攻勢とその予想外の速さでのカブール制圧、そして新政権の非民主的政策の兆候がすでにみられる今日、欧州がアフガニスタンの事態を救済するための決定的な手段は見えない。中国の一帯一路に対応する形で進めてきた従来の中央アジア政策も決め手を欠く。他方で米中二大国中心の国際社会の支配に抗して多極世界観のもとに仏独が艦船を派遣してインド太平洋でのプレゼンスを示そうとした動きもAUKUS(豪・英・米アングロサクソン同盟)とその二次集団としてのQUAD(日米豪印)の結集によって揺さぶられる。豪が仏からのディーゼルエンジン潜水艦の購入契約を反故(ほご)にして米国から原子力潜水艦購入を決めたことはその象徴だった。「戦略的自立」を掲げて世界戦略を誇示しようとする大陸欧州の外交とバイデン外交は中国・ユーラシアをめぐる競争関係の観を呈してきた。
不完全だった欧州のアフガン撤退
欧州主要国は米国の撤退直前の8月末直前に退避作戦終了を宣言した。しかしそれは各国間の不統一と将来に禍根を残す不完全な撤退となった。フランスは4月にバイデン米大統領が「9月には米軍をアフガンから撤収させる」と発言したのを受けて、5月から現地関係者の退避を開始、8月27日にまでに約3000人(内2600人はアフガン人)をフランス本国に退避させることに成功した。これに対して、英国は1万5000人の退避を実施したが(現地関係者とその家族8000人含む)、米国との関係に縛られて退避の判断が遅れたためアフガン人800~1100人、英国人100~150人を置き去りにすることになった。ドイツは、カブール政府の陥落は9月末までないとみていたため、8月中旬になってからの退避活動となり、ドイツに出国できた人数は約2000人だけだった。
欧州にとってアフガニスタン撤収以後の喫緊の課題は、第1に難民の流入と現地での人権擁護だ。シリア難民を含む100万人もの難民がヨーロッパに押し寄せた2015年の悪夢が欧州各国の首脳の頭にはよぎる。今回のアフガン撤収以前にすでにパキスタンとイランには500万人がアフガニスタンからのがれている。英国はいち早く2万人の受け入れと住居・教育などを含む支援を明らかにしたが、受け入れには限界がある。依然として欧州はこれら近隣諸国と協力しなければならない。15年難民危機に際しては各国への割当制を導入したが実行率は低く、資金援助をしてトルコを中心にシリア難民の多くを暫定的に受け入れてもらっている。
難民受け入れに各国慎重
8月末のEU内相会議でも各国は難民受け入れには慎重で、近隣諸国と国際機関での難民保護のための支援を決定したが、その額については決められなかった。9月3日のスロべニアの外相会議でも、人道支援と欧州市民・アフガン人関係者の退避、難民・テロリスト・組織犯罪・麻薬密売対策のために近隣諸国との連携による地域プラットフォームの重要性が強調された。なかでもEUの最大の懸念はタリバン政権の下での人権侵害だ。この外相…
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週刊エコノミスト
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