破綻した核燃サイクル 再処理工場はいまだ竣工せず 直接処分との併用が現実的だ=橘川武郎
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9月に行われた自民党総裁選で、河野太郎氏は既存原発の再稼働は容認しつつも、核燃料サイクルについては、「なるべく早く手じまいすべきだ」と明言した。河野氏は敗北し、その政策の実現はいったん遠のく形になったが、核燃料サイクル一本やりの政府の使用済み核燃料対策(バックエンド対策)は、事実上破綻していることは明白であり、河野氏が提起した問題の重さを、われわれは直視しなければならない。
核燃料サイクルの中枢を担うのは、日本原燃が青森県六ケ所村で運営する使用済み核燃料の再処理施設(使用済み燃料を加工して再び核燃料として原発で使用する)だ。六ケ所村とその周辺地域では、1960年代後半に、石油化学コンビナートや製鉄所の建設を含む「むつ小川原開発計画」と呼ばれる大規模な総合開発構想が立案された。
廃棄処分を除外
しかし、住民の反対や70年代のオイルショックの影響で、この計画は頓挫した。代わって浮上したのが再処理工場を含む核燃料サイクル施設だった。
85年に青森県、六ケ所村、日本原燃サービス、日本原燃産業の4者の間で、「原子燃料サイクル施設の立地への協力に関する基本協定書」が締結され、92年には日本原燃サービスと日本原燃産業が合併して、現在、核燃料サイクル施設を運営している日本原燃が発足した。
施設の中核となる再処理工場は、93年の着工以来、2兆円以上の費用を投じているが、トラブル続きで、これまで竣工時期が20回以上も延期されている。2006年にようやくアクティブ試験(実際の使用済み燃料を用いてプルトニウムを抽出する試験)を開始したが、いまだに最終的な竣工に至っていない。
日本政府は、使用済み核燃料の処理に関して、世界で広く行われている「直接処分方式」、つまり、原発で一度使用した核燃料をそのまま廃棄する方式を排除している。そして、使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル方式」一本やりで対処する方針を、今日でも堅持している。
だが、核燃料サイクル方式への完全依存方針は、二重の意味ですでに破綻しているといわざるをえない。
「もんじゅ」は廃炉に
政府は、「高速増殖炉サイクル」と「軽水炉サイクル」の2段構えで、核燃料サイクルを想定していた(図)。このうち重きを置いていた高速増殖炉サイクルは、16年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉決定によって、実現が不可能になった。これが、第1の破綻だ。
残る方策は軽水炉サイクルだけとなったが、その成否を決めるのは、MOX(モックス)燃料を既存の原子力発電所の軽水炉で使用する「プルサーマル」だ。MOX燃料とは、使用済み核燃料の再処理によって分離されたプルトニウムを、ウランと混ぜて作る混合酸化物燃料のこと。
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現在の日本には、MOX燃料を装荷(原子炉に設置)済みで、プルサーマル利用ができる軽水炉が4基しか存在しない(表)。関西電力の高浜原発3・4号機(合計でプルトニウムの年間利用目安量約1・1トン、以下同)、四国電力・伊方原発3号機(約0・5トン)、九州電力・玄海原発3号機(約0・5トン)の計4基だ。
余るプルトニウム
つまり、プルトニウムの年間利用目安量は、プルサーマルを実施した原子炉1基当たり、約0・5トンということになるが、一方で、青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場がフル稼働した場合には、年間約7トンのプルトニウムが生産される。
7÷0・5=14だから、再処理工場が生み出すプルトニウムを消費するためには、14基のプルサーマルを実施する原子炉が必要になる。ところが、現実には4基しかない。これが、核燃料サイ…
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週刊エコノミスト
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