トリチウム 誤解だらけの福島第1原発の「処理水」=小島正美
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東京電力福島第1原子力発電所の敷地に林立する1000基余りのタンクにたまり続ける「トリチウムを含む処理水」。政府は今年4月、海洋への放出を決めた。だが、放出は今後、約30年間も続く。
新聞社にいる知人の事件記者に「福島のトリチウム問題」と聞くと、「原発事故で発生したトリチウムをどう処理するかだよね」との答えが返ってきた。「いや、原発事故前から、トリチウムは国内外の原子力発電所から海や大気へ放出されていた」と説明したら、「えー、初めて知った」と驚いた様子だ。
このエピソードに象徴されるように、福島のトリチウム水問題を正しく理解している人は少ない。そこで、五つの項目で問題を解剖してみる。
タンクは7割不合格
一つ目。福島第1原発はメルトダウン(炉心溶融)を起こし、原子炉内部に熱を出す核燃料デブリがたまった。その結果、燃料デブリを冷やすための冷却水と壊れた原子炉建屋に浸入してきた地下水や雨水が混ざった「汚染水」が発生した。
この汚染水の中には、放射性物質のトリチウムやストロンチウム89、ヨウ素129など62種類の放射性物質が含まれる。このため、2013年から多核種除去設備(ALPS、アルプス)で放射性物質の除去が始まった。
だが、いまのところ、約3割のタンクは海へ流してもよい「処理水」となったものの、残る約7割は環境放出基準を超える放射性物質が残ったままだ。要するにタンクの約3割は合格、約7割は不合格だ。
ただし、水と同じ性質のトリチウムだけは除去できないため、最終的には海水で希釈されて流される。これがタンク水の構図だ。
海外はトリチウム放出
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二つ目。トリチウムは通常の原発でも発生し、海や大気へ放出されている。韓国や中国は日本の海洋放出に反対しているが、自国ではもっと多量のトリチウムを放出している。
三つ目。東電は除去に合格した処理水を希釈して海へ流すが、その際、年間のトリチウム放出量を22兆ベクレル以下にする方針だ。この22兆ベクレルは、海外の原発の放出量に比べて、かなり少ない(表1)。ちなみに福島原発事故以前に国内の原発は平均で年間約380兆ベクレルのトリチウムを海へ流していた。
海へ流す際のトリチウムの濃度も極めて低い。東電は国際基準値(1リットル当たり6万ベクレル)や世界保健機関(WHO)の飲料水ガイドライン(1リットル当たり1万ベクレル)よりも厳しい1…
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週刊エコノミスト
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