経済・企業

強硬姿勢に反発も、中国の一帯一路に募る警戒感=湯浅健司

ラオスで建設が進んでいた2018年当時の中国ラオス鉄道。今年12月の開通を予定する(ラオス・ルアンプラバン) Bloomberg
ラオスで建設が進んでいた2018年当時の中国ラオス鉄道。今年12月の開通を予定する(ラオス・ルアンプラバン) Bloomberg

一帯一路 曲がり角の対外拡張路線 TPP加盟へ外交攻勢=湯浅健司

「一帯一路」構想の関連融資を受けた中低所得国のうち4分の1の国は、対中債務が国内総生産(GDP)の1割を超える──。こんな衝撃的な調査結果が9月下旬、公表され、世界の主要メディアが一斉に報道した。

 公表したのは米国の民間調査機関のエイドデータ研究所。2000年から17年末までに中国の政府・国有企業がアジアやアフリカなどの165カ国で資金を拠出した約1万3400件の事業について調べた。中国の融資総額は8430億ドルを超え、融資を受けた国のうち、政府の負債として公になっていない「隠れ債務」が3850億ドルにのぼった。また、42の国は対中債務額がGDPの1割以上の規模だったという。

 中国は10年以降、対外援助の白書を数回発表しただけで、その実態をほとんど明らかにしてこなかった。エイドデータ研究所は、中国の融資による中低所得国の債務残高が、これまで海外で推定されていた規模を大きく上回るとみている。

「一帯一路」構想は習近平氏が政権トップの共産党総書記に就任した翌年、13年9月に打ち出した対外政策の柱である。当時、米国のオバマ政権は「アジアへの復帰」を宣言。経済的には環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉を先導し、安全保障面では日本や豪州などのアジア太平洋の同盟国との軍事協力強化を鮮明にしていた。日本は尖閣問題、東南アジア諸国も南シナ海の領海問題を巡り、対中関係が緊張化していた。東方から中国への圧力が強まる中、習氏は活路を「西」に見いだそうとし、中央アジアから欧州、さらには中東、アフリカに連なる経済圏を創出するという、壮大な絵を描いたのである(図1)。

債務「最大」はラオス

 構想発表の2年後、15年から中国は中低所得国に対して、鉄道や高速道路、港湾などのインフラ整備・建設を資金援助する動きを加速させたが、対象プロジェクトの中には採算性が疑わしいものが少なくなかった。18年には国際通貨基金(IMF)が重債務貧困国と呼ばれるアフリカの国が中国への債務返済ができなくなっている、と指摘する。相手国を借金漬けにして、債務免除と引き換えにインフラの権益などを得る「債務の罠」が批判されたのも、この頃からだ。

 エイドデータ研究所の調査は、中国の対外拡張路線に潜むリスクを改めて警告した形となった。今回の調査で、「対中隠れ債務」がGDP比で最も大きかったのはラオスだ。公表している政府債務と合わせると、対中債務は実に64%に及ぶ。同国は中国の援助をもとに、首都ビエンチャンと中国国境を結ぶ高速道路を年内に開通させる予定。将来はタイの首都バンコクまで延伸するという触れ込みだが、その実現性は乏しい。最貧国のラオスの単独運営では債務返済は難しいとみられ、プロジェクトの中国化が懸念されている。

 アフリカやアジアで中国が仕掛けた「債務の…

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