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欧州で天然ガスが急騰、その要因は=山本隆三
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欧州電力危機 今冬「暖房か、食料か」の選択 急増する「エネルギー貧困層」=山本隆三
欧州では目下、天然ガス価格と電気料金が急騰し「エネルギー危機」と呼ばれる状況に陥っている。暖房を天然ガスに依存する家庭が多い欧州では今冬、「暖房か食料か」の選択を迫られるエネルギー貧困層が増加するかもしれない。
実際、暖房を天然ガスに依存する世帯比率が85%の英国イングランド地域では、エネルギー貧困層は全世帯の約13%、300万世帯を超えている。
こうした状況の中、欧州連合(EU)は10月21~22日、EU首脳会議を開催し、エネルギー危機を乗り切るための方策を議論した。短期的な問題を乗り切るための対症療法として、税免除や補助金提供がまとめられたものの、中長期的解決策の原因療法は見つからず、年末に持ち越しとなった。今回のエネルギー危機が複合的な原因で発生したことに加え、EU各国のエネルギー事情が異なることから、合意できる解決策が見つからなかったとみられる。
需給逼迫と気象要因
2021年半ばから、欧州の多くの国で電気料金の上昇が見られるようになった。イタリアでは、7月1日に料金上昇が20%になると予測されたため、政府が税金投入により料金上昇を9・9%に抑制した。しかし、その後も料金上昇は続き、上昇幅が40%になると予想された10月には、再度政府支援が行われることとなった。
電気料金上昇の背景の一つには、今年になり多くの国で天然ガス火力の発電量が上昇する中で、需給逼迫(ひっぱく)により燃料の天然ガス価格が高騰していることがある。天然ガス需要はコロナ禍の影響を受け、20年前半には大きく低迷したが、景気とエネルギー需要の回復を受け増加している。
その状況下に気象要因も加わった。20年から21年にかけて冬季の気温が低かったために天然ガス需要が増え、欧州では3月末の天然ガス在庫量が昨年比44%減となった。通常であれば冬季に減少した天然ガス在庫は、4~10月の低需要期に回復するが、今年前半の風力発電量は前年同期比7%減となり、天然ガス火力で補ったので、在庫量は低いまま推移した。
温暖化対策に熱心なEUの西側主要国は、石炭火力の廃止を進め、風力や太陽光発電設備への代替を進めてきた。石炭・褐炭火力の発電量はピーク時の03年にEU27カ国で8490億キロワット時あったが徐々に減少、10年代になり急減し20年には3650億キロワット時まで減少した。温暖化対策に加え、欧州主要国では国内炭鉱の閉山が進み、老朽化した石炭火力発電所が価格競争力を失ったことで、石炭火力設備の廃止が進んだ。
風力や太陽光発電設備が、廃止される石炭火力設備の発電量を補うスピードで導入されれば、問題はなかった。だが、再生可能エネルギー設備からの発電量は増えたものの、それだけでは石炭火力減少分を補うことができず、結局天然ガス火力が不足する発電量を供給することになった(図1)。
EU27カ国への天然ガス供給量は、14年が石油換算2億8300万トンだったのに対し、19年には3億3700万トンまで増加。今年の風力発電量の低下は、さらに天然ガス火力の利用率を上げ、需要を増やした。天然ガスが十分に供給されれば問題はなかったが、十分な量の供給を得られずエネルギー危機と呼ばれる急激な価格上昇を招いた。
悪いのはロシアなのか
EUは天然ガス需要の約90%(19年)を域外からの輸入に依存している。20年の輸入実績を見ると最大の供給国はロシアで、需要量の約4割を同国に依存している(図2)。
ロシアからの天然ガスは、かつて8~9割がウクライナ経…
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週刊エコノミスト
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