マーケット・金融

全国254信金 2021年3月期決算を、三つの視点で徹底分析=三好悠

決算分析 連動しない規模と経営効率 不動産貸出比率は都市で高く

 協同組織金融機関として地域経済の下支えの役割を期待される信用金庫。新型コロナウイルス禍では、まさにその真価が大きく試された。ただ、信金の姿は一様ではなく、規模や貸し出しの傾向、地域経済の状況などによっても大きく異なる。全国254信金の2021年3月期決算のデータを基に、信金が今、どのような状況にあるのか、三つの切り口から分析してみた。

 信金の規模格差は従来から指摘されており、2021年3月期の総資産が最大の京都中央(京都府、6兆2930億円)と最小の日田(大分県、495億円)では、その差は約127倍に達する。信金の数は1998年4月には全国で401あったが、現在では254信金まで3割以上減少しており、 合併などに伴って規模の格差がより鮮明になっている。

筋肉質な観音寺、飯塚

 信金を含め金融機関が合併・再編を図る大きな理由の一つに、スケールメリットによる経営の効率化が挙げられる。金融機関は預金を扱い、金融システムとつながる性格上、厳しい規制・監督下に置かれており、規模にかかわらず一定の事務量やシステム投資が避けられない。そのため、複数の金融機関が統合すれば、そうした事務などのコストを削減でき、浮いた人員などを他の業務に回すことができるという理屈だ。

 そこで、21年3月期の254信金の決算データから、総資産と総資産経常利益率の2軸で分布を見てみる(図1)。意外なことに、規模の大きさにかかわらず、総資産経常利益率が0・20%付近に大半の信金が集まる結果となった。 理屈通りにスケールメリットが働けば、分布は右肩上がりとなるはずだが、必ずしもそうはなっていないのはなぜなのか。

 より細かく総資産1兆円未満、総資産経常利益率0・70%以下の信金の分布を見てみても、さほど傾向に大きな違いはない。少人数・筋肉質経営で知られる観音寺(香川県)、飯塚(福岡県)など、より規模の大きな信金よりも総資産経常利益率が高い比較的小規模な信金も存在する。結局のところ、小口融資が中心の信金では規模と経営効率は必ずしも連動せず、経営者の力量に負うところが大きいということだろう。

 むしろ、現在の低金利環境の中で、預貸率が極めて低い八幡(岐阜県)、高知(高知県)のほか、不動産融資の比率や残高が大きい大阪厚生(大阪府)、西武(東京都)などの総資産経常利益率の高さが目立ち、余資運用の巧拙や不動産融資から得る収益が利益率を引き上げる傾向にある。

不動産向けが多い遠軽

 それでは、実際に不動産融資は信金の利ざやにどう影響しているのか。貸出金残高に占める不動産業向けの比率と総資金利ざやの2軸で分布を取ってみると、こちらも全体として明確な相関は見られないものの、大阪厚生をはじめ、渡島(北海道)や東京、西武、青梅(東京都)などいずれの数値も高い信金も目立…

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週刊エコノミスト

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