富裕層の「未申告」海外資産に税務調査が入るのは時間の問題だ=高鳥拓也
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海外資産 86カ国・地域との情報交換が端緒 「未申告の資産」が標的になる=高鳥拓也
高度な節税策を駆使している富裕層などへの税務調査の重点化が進められている。富裕層に親和性の高い海外資産の調査では、申告漏れ額が大きい事案や租税回避スキームを駆使した事案が優先される傾向だ。筆者が関与する事案では、海外進出や海外投資をしている中小企業のオーナーが、法人税や個人所得税など複数の税目を横断的に調査する「総合調査」のなかで、CRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)情報を端緒として、個人所得の申告漏れを指摘されるケースが多い。中小企業オーナーのなかには、まとまった額の海外資産(5億円以上)の未申告など納税に対するコンプライアンス(法令順守)に「隙(すき)」がある人もいるため、税務署の格好の標的となっている。
国税庁が税務調査に活用するCRSは、非居住者の金融口座の情報を他国の税務当局との間で自動的に交換する仕組みで、経済協力開発機構(OECD)が策定。口座保有者の個人情報(氏名、住所、マイナンバーなど)、収入情報(利子・配当などの年間受取総額)、残高情報(口座残高)などが対象になる。暗号資産(仮想通貨)は現在対象ではないが、OECDでは対象に含める検討が進んでいる。
口座残高は約10兆円
海外資産の開示制度としては、年末時点で5000万円超の国外財産を持つ場合、国外財産調書の提出が義務づけられている。未提出や虚偽記載の場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が適用されるが、実際の適用は悪質な脱税事案との関連でなされたものに限られており、様子見の対象者が多い。そういった背景もあり、自主的に国外財産調書を提出している人の数は頭打ちの状態にある。そのため、国税庁はCRSを税務調査の切り札として使っており、申告漏れ事案の端緒となることが多いのだ。
日本では2018年9月末に1回目のCRSが実施された。19年9月末実施の2回目の情報交換では、86カ国・地域から約206万件の日本居住者の海外口座情報が、国税庁に提供された。提供された口座残高は約10兆円にのぼる。
1回目の情報交換は原則として、新規開設口座と100万ドル(約1億1500万円)超の個人口座が対象であったが、2回目以降は、これらに加えて100万ドル以下の個人口座と法人口座も対象となった。提供元には、日本人富裕層の主要な海外資産運用拠点であるシンガポール、香港、スイスや英領バージン諸島(BVI)など一部のタックスヘイブン(租税回避地)も含まれている。
20年9月末の3回目の情報交換では、日本と人的・経済的な関係が深い台湾も対象国に加わった。包囲網がどんどん拡大するなか、納税者がこの網を避けてCRS対象国以外に資産を持つ選択は現実的に難しくなっている。
米国についてはCRSの枠組みには参加していないが、従来、日本との間で、法定調書(税務署への提出が義務付けられている書類)の情報交換を活発に行っている。法定調書には日本居住者の収入情報(利子・配当などの年間受取総額)だけでなく、マイナンバーも記載される。
これは、日本居住者が米国口座での運用益について、日米租税条約の特典である源泉税の減免を受けるには、米国金融機関にマイナンバーを開示する手続き書類を提出して、日本居住者口座として口…
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週刊エコノミスト
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