マーケット・金融

トルコ、ブラジルも……インフレが直撃する新興5カ国の行方=田村優衣

トルコ・イスタンブールでは、深刻な物価上昇が市民生活を襲う……(2021年10月) Bloomberg
トルコ・イスタンブールでは、深刻な物価上昇が市民生活を襲う……(2021年10月) Bloomberg

新興国 資源高、通貨安でインフレ大波 苦境にあえぐトルコ、ブラジル=田村優衣

 新興国でインフレ圧力が高まっている。中でも、消費者物価指数(CPI)上昇率ではブラジル、メキシコ、ロシア、トルコ、フィリピンの5カ国が顕著で、いずれも物価目標とするレンジを上抜けて高止まりしたり、上昇基調で推移したりしている。資源高や新型コロナウイルス禍からの需要回復に加えて、特にトルコやフィリピンでは通貨安も進行してインフレ要因になっており、政策のかじ取りが難しさを増している。

 インフレが最も顕著なのがトルコだ。2021年11月のインフレ率は前年同月比21・3%上昇となり、インフレ目標上限の同5%を大きく上回って推移している。また、同月のインフレ率は、ブラジルが10・7%上昇と9月から3カ月連続で2ケタを超え、ロシアは同8・4%、メキシコは同7・4%上昇した。フィリピンも11月は小幅に低下したものの、今年に入って10カ月連続でインフレ目標上限の4%を上回っている(図1)。

 現在新興国で生じているインフレ圧力は、需給バランスの引き締まりとコスト高が併存する、複合的な要因によって生じている。需給バランスの引き締まりの背景には、新興国でもコロナ禍からの経済活動の正常化が進み、需要が回復してきたことがある。ブラジルは新興国の中でもワクチンの普及が早く、感染拡大の波を21年の夏場に抑え込むことができた。

 また、今夏のメキシコや今秋ごろのロシアのように、感染が拡大しても経済活動の制限を限定的なものにとどめる政策へと各国政府がかじを切ったことも需要回復を支えてきた。一方、需要の回復に対して供給拡大は追い付いておらず、輸送網の停滞や国際間の移動制限による人手不足など、さまざまな供給能力の制約が需給バランスを一層引き締めている。

 21年に入って上昇ペースが急加速した原油や食糧などの資源高も、インフレ率を押し上げる要因の一つとなっている。一般に、新興国は先進国より資源価格変動の影響を受けやすい。消費に占める食品やエネルギー費目の割合が高く、物価指数に資源価格の変動が反映されやすいためである。加えて、資源調達を輸入に頼る非資源国のトルコやフィリピンでは、資源高が物価に反映されやすいと考えられる(図2)。

中銀の信認に「傷」

 通貨安がインフレ圧力となっている国もある。トルコ・リラやフィリピン・ペソの名目実効為替レート(貿易量で加重平均した通貨の総合的な実力)は前年比でマイナスに陥っており、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力が顕在化していると考えられる。資源の純輸入国であり、かつ通貨下落が著しいトルコでインフレ加速が顕著であることは、足元のインフレ圧力が複合的な要因であることを象徴しているといえる。

 22年のこれら新興国を見通すうえでポイントとなるのは、資源高や供給制約といったコスト高の解消と、21年に実…

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週刊エコノミスト

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