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週刊エコノミスト Online 中東

サウジもUAEもバーレーンも一斉に「温室効果ガスネットゼロ」宣言 その裏にあるもくろみと現実解は?=豊田 康平

温室効果ガスの「ネットゼロ」 中東3カ国が宣言したワケ=豊田康平

 アラブ首長国連邦(UAE)を構成するドバイ首長国の建国の父、故ラシード首長(在1958~90年)は「私の父はラクダに乗っていた。私はメルセデスに乗り、息子と孫はランドローバーに乗るが、ひ孫はまたラクダに乗るだろう」という言葉を残した。石油ブームに沸く経済の繁栄は長く続かないことを戒めた言葉とされる。

 現在、脱炭素の動きが進む中で、石油・ガスといった化石燃料の輸出で豊かになった湾岸産油国の将来に懐疑的な読者も少なくないだろう。しかしながら、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を1カ月後に控えた2021年10月7日、UAEが50年までに温室効果ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)を達成すると発表した。

 また、同23日にはサウジアラビアが60年までにネットゼロ達成を目指すと発表し、これに続き24日にバーレーン内閣も60年までのネットゼロの達成を目指すと述べたと報道された。

 この発表に合わせてUAEは、再エネ関連事業で50年までに約1600億ドル(約18・4兆円)を投資すると発表した。サウジは再生エネルギー、再エネ由来の「グリーン水素」、化石燃料からの製造過程で発生する二酸化炭素(CO2)を回収して排出をゼロに近づける「ブルー水素」、CCUS(CO2の回収・利用・貯蔵)、植林などを挙げつつ30年までに約1870億ドルの投資、年間2億7800万トンの炭素削減を打ち出した。さらに、米国と欧州連合(EU)が主導して、CO2の25倍の温室効果を持つメタンを30年までに30%以上削減する目標を掲げる「国際メタン誓約」に加盟することも発表した。

米国との関係も影響

 これら中東3カ国がネットゼロを発表した背景には、外交上の思惑が存在する。近年ヒト・カネ・モノのハブとして存在感を高めるUAEは、ソフトパワー外交を掲げ中東地域をリードすることを目指しており、中東初のネットゼロ発表はこの外交戦略の一環ともいえる。この戦略が功を奏してUAEは、23年のCOP28の開催国に決定した。

 また、湾岸産油国に安全保障の傘を提供するバイデン米大統領は、人権問題などを理由に就任直後から湾岸産油国、特にサウジから距離を置いており、バイデン政権との関係を築くためにも同政権が重視する気候変動対策での協力は欠かせない。国際メタン誓約はバイデン大統領が力を入れる政策の一つだ。なお、バーレーンはサウジと王家や経済の結びつきが強く、サウジに追随したとの見方が一般的だ。

 ただ、今後、3カ国が国家収入の大部分を依存する石油・ガスを捨てて脱炭素にかじを切るかといえば、そうではない。ネットゼロ発表直後の米CNNのインタビューで、UAEのムハイリ気候変動・環境大臣は「石油もガスも引き続き必要とされれば生産を続ける」としたうえで、「すぐに蛇口を閉じる…

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