経済・企業 半導体 需要大爆発
強いはずの日本のパワー半導体に感じる凋落のデジャブ=伊藤元昭
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パワー半導体 脱炭素化で投資競争へ 日本凋落の既視感=伊藤元昭
各国政府は、競うように半導体産業の育成政策を推し進めている。こうした施策のほとんどが、先端微細加工技術を使って作るデジタルチップの生産を対象としたものだ。しかし、近未来の社会を支える半導体を洞察すれば、「脱炭素」の戦略物資となるパワー半導体の開発・生産体制こそ、いま重点的に強化すべきではないか。これは、特に日本ついていえる。
パワー半導体とは、電圧・周波数・交流/直流など、電力の仕様を変換するために使われるチップである。家電や電気自動車(EV)、工場で使う各種装置などを動かすモーターの駆動、さらには電力網や太陽光発電設備を構成する重要部品である。発電した電力は、機器を動かすまでには何度も電力変換を繰り返され、その間に発電した電力の約3分の1を無駄に損失している。より高効率なパワー半導体の開発と普及が進めば、こうした無駄を最小化し、脱炭素化の取り組みは随分楽になる。
大口径化に遅れる日本
幸いなことにパワー半導体の領域で、日本は高い競争力を維持している。英オムディアの調べでは、2020年のパワー半導体の金額ベースでのシェアのトップ10の中に、三菱電機(3位)、富士電機(5位)、東芝(6位)、ルネサスエレクトロニクス(7位)と4社も食い込んでいる。設計・製造技術に関しても世界をリードしている。パワー半導体のエネルギー効率を飛躍的に高める新材料として期待されるSiC(炭化ケイ素)を使ったトランジスタを世界で初めて商品化したのはロームである。その他にも、サンケン電気やデンソーなど、日本には多くのパワー半導体メーカーがある。
ただし、こうした強さが、将来まで約束されているのかと問われれば、極めて危うい状況だ。
現在、パワー半導体ビジネスをリードしているのは、独インフィニオンテクノロジーズである。その売り上げは、2位以下にダブルスコア以上の大差をつけている。同社は15年、半導体製造で使用するウエハーを従来の200ミリから300ミリへと他社に先駆けて大口径化。300ミリ化すれば、設備投資の規模は増大するが、1枚のウエハーから取れるチップの数が増えて生産効率は高まる。この判断が功を奏して、同社は業界トップの地位を不動にした。
脱炭素でパワー半導体需要の急増が確実視される中、欧米のパワー半導体メーカーは、次々と工場の300ミリ化を進めている。米オンセミと独ボッシュは20年から300ミリ工場での量産を開始。米テスラにSiCパワー半導体を供給して話題になったスイスのSTマイクロエレクトロニクスも22年に量産予定である。
中国企業も同様だ。中国では、国家プロジェクトとしてパワー半導体の国産化を推進している。米中対立によって、先端半導体の自国生産は困難になっているが、パワー半導体の参入障壁は比較的低い。既に士蘭微電子がアモイに300ミリウエハー工場を設置し、20年12月から量産を開始。さらに、華潤微電子も重慶で300ミリ工場の建設計画を発表した。
ところが、この領域に強いはずの日本のパワー半導体メーカーの動きは一様に鈍…
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週刊エコノミスト
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